■ 1. ストア哲学の概要と歴史的背景
- 起源と創始者: 紀元前3世紀頃、古代ギリシャの哲学者ゼノンによって創始された学派。
- 影響力の大きさ: 古代ギリシャやローマ帝国時代に人気が高まり、エピクテートス、セネカといった著名な哲学者や、五賢帝の一人マルクス・アウレリウス・アントニヌスといったローマ皇帝にも思想が取り入れられた。
- 時代背景(ポリスの崩壊):
- ストア哲学が流行する以前、ギリシャ人はポリスという小さな共同体の中で外部を知らずに生活していた(箱入り娘・息子のような社会)。
- マケドニアなどの外部勢力が侵入し、ポリスという共同体が崩壊したことで、人々は「世の中は自分の村だけではない」という広い世界を実感した。
- 関心が「共同体(ポリス)の中でどう生きるか」から「自分自身がどう生きるべきか」へと変化した。この背景で、ストア哲学が注目を集めた。
■ 2. ストア哲学の核心: 倫理学と「自然に従って生きよ」
- 哲学の構成: ストア哲学は3つに分かれるが、特にメインとなるのが倫理学であり、これが人間がどう生きていくべきかを論じる。
- 中核概念: 倫理学の中核を担うコンセプトは「自然に従って生きよ」である。
- 「自然に従って生きよ」の意味:
- これは、動物的本能に従うという意味ではない。
- 理性に従って、本能的欲望や地位・名声を求める気持ちをうまく制御して生きるべきだという意味である。
- 人間は動物的本能だけでなく「理性」も与えられているため、理性も働かせている状態こそが人にとっての「自然」だと解釈される。
- 「ストイック」の語源: 理性で欲望を制御するこの生き方(禁欲主義)が、「ストイック(Stoic)」という言葉の語源になったとされる。
■ 3. 実践的なストア哲学: 「コントロールできるものとできないもの」
- エピクテートスの名言: 「物事には我々次第であるものもあれば、我々次第でないものもある」
- 基本的な考え方:
- 自分でどうにかできるものに対しては努力すべきである。
- 自分でどうにもならないものに関しては、いくら求めても幸せにはなれないため、執着すべきではない。
- 自分でどうにかできるもの(内面): 自分の行動、考え方、価値観、欲望、願望。
- 自分でどうにもできないもの(外面): 他人の行動や考え方、他人からの評価、地位や名声。
- 具体例:
- 就職活動: 会社に入りたい理由をまとめる、面接でどう伝えるか考える、資格を取る(自分でどうにかできる)が、実際に採用されるか(自分でどうにもならない)は会社側の判断であり、執着すべきではない。
- 恋愛: モテるために考える、容姿を磨く(自分でどうにかできる)が、相手が実際に自分を好きになってくれるか(自分でどうにもならない)は相手がコントロールする部分であり、無理に変えようとしても幸せになれない。
- 現代への応用: 「できることは充分にあり、自分がコントロールできない部分はもうなるようになる」というスタンスは、地位や名声への執着にとらわれがちな現代人にとっても、心の充実につながる考え方である。