■ 1. ASD(自閉スペクトラム症)の基本的特徴
- 定義: 社会的なやり取りに特徴が見られ、コミュニケーションの障害として捉えられる
- 具体的な特徴: 視線が合わない、一方的な会話になる、強いこだわりがある、感覚の過敏がある
- 現行診断基準の2領域:
- (1) 社会的コミュニケーションの持続的な欠陥
- (2) 限定及び反復的行動様式
- 補足的要件: 発現が早期(幼児期)であること、機能障害(認知・身体・社会性)を伴うこと
■ 2. 社会的コミュニケーションの欠陥
- 対人関係の課題: 相手の感情を読み取る、自分の感情を適切に伝える、会話の自然なキャッチボールができない
- 非言語的コミュニケーション: 視線を合わせる、表情で伝える、身振り・手振り、声のトーンなどが理解できない、使うことも苦手
- 字面通りの受け取り: 言葉を字面通りに受け取り、言葉の裏にあるニュアンスや意味が汲み取れない
■ 3. 限定及び反復的行動様式
- 常同行動: 手をヒラヒラさせる、体をブラブラさせる、その場でくるくる回る、手を拍手のようにパチパチする
- 特徴的な物の使い方: おもちゃを1列に並べて遊ぶ、車を裏返しにしてタイヤをくるくる回転させる
- エコラリア(反響言語): オウム返しのように喋る(例:「今からご飯だよ」→「今からご飯だよ」)
- 独特な言い回し: 大人びた言い方や子供なのに多用する表現
- 同一性への強いこだわり: 同じ服でないと嫌、同じ通学路でないと嫌、手の洗い方は絶対こうでないと嫌
■ 4. スペクトラムの概念
- 切れ目がない: 明確な境界線がなく連続的である
- 多様性の存在: ASD的特徴とADHD的特徴を持つ子が多く存在する
- 個別性の重要性: 字面通りASDと言われても、本人のパーソナルデータには様々な凸凹がある
- 土台の共通性: コミュニケーションやこだわりという土台は共通だが、その上に生えてくる特性の課題は異なる
- 支援の個別化: 本を読んで「自閉症だからこれをやろう」としてもうまくいかないケースが多い理由は、スペクトラムという概念で見なければならないから
■ 5. 古典的自閉症(カナー型自閉症、1943年)
- 発見者: アメリカの児童精神科医レオ・カナー
- 主要特徴: 極度の社会的孤立と同一性保持への欲求、著しい言語遅延
- 対人反応の特異性: 赤ちゃん期に抱きしめようとすると体を離そうとする、あまり泣かない
- 常同行動: くるくる回るなどの繰り返し行動
- 知的障害: ほぼ全員が知的障害を伴っている
- 日本での印象: 自閉症イコール知的障害という見られ方が多いのは、これが最初にできた自閉症のカテゴリーだから
■ 6. 高機能自閉症(HFA、1990年頃)
- 定義: 知能の遅れがないケースだが、言語の遅延がある
- 特徴: 言葉を喋るのは苦手だが、勉強することは得意
- 知的水準: 平均域くらいの知的能力がある
- 臨床的特徴: コミュニケーションのギャップと局所的優秀さが混在している
- 局所的優秀さの例: 虫や恐竜に関してはめちゃめちゃ知っている、記憶力が良い
- 支援の必要性: 柔軟性がない、状況に合わせてうまく動けない、感覚の過敏があるため、学業や生活への支援が必要
- 診断の曖昧さ: 医師によって判断基準が曖昧で、中軽度知的障害の子が高機能自閉症と診断されることもある
■ 7. アスペルガー症候群(1944年、認知は1980年以降)
- 発見者: オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガー
- 発見時期: レオ・カナーの翌年(1944年)に報告されたが、認知が進んだのは1980年以降
- 主要特徴: 言語の遅延なく、知的障害も伴わないが、丁寧な形式ばった話し方と限定的興味を示す
- 言語面: 言葉は流暢で、いっぱい喋れる、喋るのが得意
- コミュニケーションの課題: 比喩の理解や対人距離の調整が苦手、相手の状況や立場になって会話することができず一方的な会話になりやすい
- 感覚面: 感覚の過敏やトラウマも伴っており、感情の起伏が激しいように見える
- 長所: 専門知識を深掘りすることができ、学者タイプに多い
■ 8. 日本における認知の歴史
- 1990年代: 高機能自閉症やアスペルガー症候群が規定されたが、日本では認知されていなかった
- 2000年以降: 発達障害がクローズアップされ始めた
- 2010年以降: 発達障害の認知が本格的に広まった
- 現在の30-40代: この世代が子供だった頃(1980-1990年代)は認知が進んでおらず、診断されずに見過ごされた可能性が高い
- 最近の概念: アスペルガーや高機能自閉症は比較的最近理解され始めた概念であり、大人になってから診断される人が多い理由
■ 9. 2013年のDSM-5による統合
- 統合の背景: アスペルガーと高機能自閉症の判別が難しく、線引きが曖昧だった
- 判別の困難性: 高機能自閉症の子が成長して言語が上手に使えるようになると、アスペルガーとの判別がつかない
- 広汎性発達障害の問題: 発達的な課題や生活上の課題があるが、どこに該当するか分からないカテゴリーだった
- 現行基準: 2013年のDSM-5で大きな診断基準の変更が行われ、様々な障害がASD(自閉スペクトラム症)として統合された
- 統合の理由: 基盤がコミュニケーションの課題やこだわりの問題という共通点があったため
■ 10. 支援における重要な視点
- 診断名に囚われない: 子供たちの診断名ではなく、実際の困り感や本人の強みに目を向けることが大事
- 特性の組み合わせで理解: 分類よりも特性の組み合わせで理解する方が良い
- プロファイルとして捉える: 子供たちが持つ強みや困難を組み合わせてプロファイルとして、全体のスペクトラムとして捉えることが重要
- 個別性の尊重: ASDもADHDもLDも被っている部分もあれば違っている部分もあり、曖昧な捉え方である
- 言葉よりも現状: 言葉の定義は共通認識のために必要だが、実際は言葉の中に含まれる中身や実情が大事
- 1人1人違う: 子供1人1人に特徴があり違いがあるため、それに合わせて支援していくことが必要