■ 1. システム思考の定義と目的
- システム思考とは: 現象の背後にある構造(システム)を可視化し、それを効果的に変える手段を明らかにする考え方
- 出典: ピーター・センゲの「学習する組織」で紹介され、5つの要素(共有ビジョン、自己マスタリー、チーム学習、メンタルモデルの克服、システム思考)の中心に位置する
- 習得効果: 問題発見力と解決力を飛躍させ、最小の力で最大の効果を生むレバレッジ(効果的作用点)を発見できる
■ 2. システムの可視化手法
- 因果ループ: 複雑なシステムを要素(状況や状態)とそれらを巡回する因果関係で表現する方法
- 正の因果関係: 原因の増減が同じ方向に結果の増減をもたらす関係(プラス記号で表示)
- 負の因果関係: 原因の増減が反対方向に結果の増減をもたらす関係(マイナス記号で表示)
- 具体例: 米ソの軍拡競争では、一方の軍備増強が他方の脅威となり、相手の軍備増強を招く循環構造
■ 3. システム思考が必要な背景
- VUCA環境: 変動性、不確実性、複雑性、不透明性という4つの特徴を持つ現代の環境
- 仮説検証サイクル: 先行き不透明な状況下で仮説を立て検証するアプローチが必要
- 活用場面:
- 問題発見プロセスでの問題構造化
- 問題解決プロセスでの課題構造化
■ 4. システム思考の3つの特徴
- フィードバック: 原因から生じた結果が元の原因に影響を及ぼす仕組み
- 遅れ: 因果関係が循環していることを見えにくくする時間的ギャップ
- レバレッジ: 最小の力で最大の結果を生む効果的作用点
■ 5. フィードバックの詳細
- 視点の転換: 線(部分の視点)から円(全体の視点)への転換が重要
- 指数関数的変化: フィードバックは雪だるま式の指数関数的な増加または減少をもたらす
- 拡張ループ(R): 負の因果関係が0を含み偶数の場合で、システムを指数関数的に拡張させる
- 並行ループ(B): 負の因果関係が奇数の場合で、システムを安定させる作用を持つ
■ 6. 遅れの意義
- 循環の不可視化: 因果関係間の遅れが循環構造を見えにくくする
- 長期的視点の獲得: 遅れを考慮することで短期的視点から長期的視点へ転換できる
- 具体例: 軍備増強から相手国民への脅威認識までに時間差があり、各国は自国の視点に留まりやすい
■ 7. レバレッジの活用
- 問題の構造:
- 営業活動による売上増加で拡張ループが発生
- 市場飽和により並行ループが働き成長が停滞
- 売上増加まで遅れが生じる
- システムの抵抗: 押せば押すほど強く押し返してくる性質
- レバレッジの特定: 制約条件である市場規模が根本的問題
- 解決策: 営業活動強化ではなく新市場開拓が有効(アンゾフの成長マトリックスを活用)
■ 8. アンゾフの成長マトリックス
- 市場浸透戦略: 既存商品を既存市場に浸透させる
- 新市場開拓戦略: 既存商品を新規市場に展開する
- 新製品開発戦略: 新規商品を既存市場に展開する
- 多角化戦略: 新規商品を新規市場に展開する
■ 9. システム原型:成長の限界
- 構造:
- 成長行為により成果が上がり拡張ループが発生
- 制約条件による減速効果で並行ループが働く
- 成果から減速行為まで遅れが生じる
- システムの抵抗: 成長行為を強化しても成果は上がらない
- 対処原則: 成長行為の強化ではなく制約条件を取り除くか削減する
- 教訓: 勝って兜の緒を締めよ
■ 10. 実践例:恋愛関係の分析
- 初期段階: 恋人と過ごす時間増加により関係強化という拡張ループ
- 悪化段階: 過度な期待により不満が募り並行ループが働く
- 誤った対処: 会う機会を増やすことでさらに関係悪化
- レバレッジ: 恋人への期待を下げることで不満を減らし関係改善が可能だった
■ 11. システム思考の3つの効果
- 全体的思考力: 因果関係のフィードバックを考えることで部分から全体へ視点転換できる
- 長期的思考力: 因果関係の遅れを考えることで短期から長期へ視点転換できる
- 根本的思考力: 因果関係のレバレッジを考えることで根本原因に着目できる