■ 1. システム思考の概要
- システム思考とは: 複雑な物事の対局、全体、根本を捉える物の見方
- 活用場面: VUCA時代(変動性、不確実性、複雑性、不透明性)における複雑な課題の解決に有効
- 目的: 目先のことや誰かの言葉に振り回されず、物事を大きく深く見通す力を獲得すること
- 主要ツール: 氷山モデルと因果ループ図の2つを使用
■ 2. システムの定義
- システムの意味: 目的を達成するために互いに影響し合う要素の集まり
- 適用範囲: 人間の身体、自動車、サッカーチーム、街、生態系など身の回りのほとんどのものがシステムとして捉えられる
- 視点の要素:
- どんな要素から成り立っているか
- 要素同士がどう影響し合っているか
- どんな目的を達成しようとしているか
■ 3. 複雑な問題の特徴
- 結果が出るまで時間がかかる: 原因から結果までの遅れが影響範囲を拡大させる
- 多くの物事が絡み合っている: どの要因がどの結果に結びついているかわかりにくい
- 堂々巡りや悪循環を引き起こす: 問題解決の糸口が見つけにくい
- 人によって見え方が異なる: 解決策の合意形成が困難になり、認識の相違自体が問題の根源となる
■ 4. 論理思考との違い
- 論理思考: 分ける思考で、問題を漏れなくダブりなく要素に分解し、客観的に評価する
- システム思考: つなげる思考で、当事者の関心や文脈を含めて因果関係で結び、構造的に理解する
- ツールの違い:
- 論理思考はロジックツリーを使用
- システム思考は因果ループ図を使用
- 優劣ではなく相補的: どちらも得意不得意があり、両方が必要
■ 5. 氷山モデルの4層構造
- 出来事の視点: 具体的に何が起きているのかを見る(普段見ている部分)
- パターンの視点: 時間軸を広げて、時間とともにどんなパターンで変化しているかを見る(対局の視点)
- 構造の視点: 問題に関わる様々な要因をつなげて、どんな構造がパターンを生んでいるかを見る(全体の視点)
- メンタルモデルの視点: 無意識に抱いている思考の前提が構造を生んでいることを見る(根本の視点)
■ 6. パターンの視点
- 時系列変化パターングラフ: システムの主要な要素が時間の経過とともにどう変化しているかを表す
- 事例の分析:
- テストの成績が以前は上がっていたが、ある時点から伸び悩み停滞している
- 利益が定期的な販促セールで一時上がるが、長期的には下がる一方
- 効果: 目の前の出来事だけでは気づかない長期的な変化パターンを可視化できる
■ 7. 構造の視点
- 因果ループ図の要素:
- 変数: 関係者が気にしている物事
- 矢印: 因果関係(原因と結果の関係)
- ループ: 循環する構造(RまたはBで表記)
- パターンとの関係: 構造を可視化することでパターンの動きを説明でき、望ましいパターンの作り出し方を考えられる
■ 8. メンタルモデルの視点
- メンタルモデルとは: 無意識のうちに抱いている前提、心の声、色眼鏡
- 影響範囲: 認識、思考、行動がメンタルモデルから影響を受け、システムの構造に影響を与える
- 事例: 中間テストを「避けたいもの」と認識するか「実力を試すチャンス」と認識するかで思考や行動が変わる
- 効果: メンタルモデルに気づき変えることでシステムの構造に大きな変化をもたらせる
■ 9. 因果ループ図の構成要素
- 変数: システムに関係する重要な要素で増えたり減ったりするもの(名詞の形で表記)
- 同の矢印: 要因と結果が同じ方向に増減する関係(青色で表記)
- 逆の矢印: 要因と結果が逆方向に増減する関係(赤色で表記)
- 遅れ: 要因から結果まで時間がかかる因果関係(矢印に二重線のバーを追加)
■ 10. ループの2つのタイプ
- 自己強化型ループ(R): ますます良くなる、またはどんどん悪くなる加速的な進展(逆の矢印が0個または偶数個)
- バランス型ループ(B): システムをある水準に止めようとする、または収束させようとする力(逆の矢印が奇数個)
- 命名: それがどんな力を持つループなのかイメージしやすい名前を付ける
■ 11. 因果ループ図の作成手順
- 手順1: 解決したい問題を問いの形で表現し、問題のストーリー展開を話す
- 手順2: 問題に関わる主要な関係者や立場を挙げる
- 手順3: 関係者が特に気にしている物事や行動を変数として表現する(まず10個程度)
- 手順4: 最も重要な変数を中心に置き、その変数と他の変数を因果関係の矢印で結ぶ
- 手順5: 他の変数同士も因果関係で結びながらループを複数作り、ループに名前を付ける
- 手順6: 全体をなぞりながら問題のストーリー展開を表せているか確認し、必要に応じて手順3から5に戻り修正する
■ 12. 因果ループ図作成の注意点
- 変数の抽象度: 具体的すぎると煩雑になり、抽象的すぎると言い表せなくなるため、議論に適切な抽象度を選ぶ
- 因果関係の検証:
- 間に別の変数が存在する場合
- 複数の要因が重なって結果を生む場合
- 共通の要因が隠れている場合
- 検証方法: 特に重要な因果関係や違和感のある因果関係を重点的に検証する
■ 13. レバレッジポイントの概念
- レバレッジとは: 小さな力で大きな影響を生み出すこと(てこの原理)
- レバレッジポイント: 望ましい方向へ大きな影響を与えられる点
- 探索方法: 自分たちで実現可能で、かつ全体への効果が大きい解決策を見つける
■ 14. レバレッジポイントの5つの考え方
- 物理的な構造を変える: ものの動きや人の行動を制限・増幅する、因果関係を繋ぐ・切り離す(難易度低、効果小)
- ループを強めたり弱めたりする: 望ましいループを強化・加速し、望ましくないループを弱化・減速する
- 情報の流れを変える: 当事者の判断に影響する情報の見せ方を変え、望ましい行動を促す
- ルールや組織を変える: ルール変更で行動の動機付けを行う、立場や関係性を変える
- メンタルモデルに気づく: 自分の無意識の前提や他者への見方に気づき変えていく(難易度高、効果大)
■ 15. システム思考の実践と習慣化
- 継続的学習の効果: システム思考が自分の思考と行動の習慣として身につく
- 習得される習慣:
- 全体像を理解しようと努める
- 前提を明らかにし変革する
- 蓄積と変化の速度に注意を払う
■ 16. システム思考の7か条
- 人や状況を責めない、自分を責めない: 問題が起きても立ち止まって対局・全体・根本に目を向ける
- 出来事ではなくパターンを見る: 現在のパターンと望むパターンのギャップを見る
- パターンを引き起こしている構造とループを見る: 目の前だけでなく全体像とつながりを見る
- 働きかけるポイントを幾つも考える: システムの力を利用する
- 前向きな変化の創出: 物の見方から望ましい変化を生み出す