■ 1. 作品紹介
- 漫画『チ。―地球の運動について―』の解説動画
- 最近アニメ化された作品
- 真理の追求に命をかけた者たちの物語
- 多様な哲学的命題と人間の営みが描かれる
■ 2. ストーリー設定
- 舞台は15世紀のP国(ポーランド)
- 天動説が信じられており地動説の研究は異端として迫害されていた時代
- 真理の追求と地動説の証明に命をかけた者たちの物語
- 主人公は12歳の少年ラファウ
- 頭脳明晰な神童として世の中を合理的に攻略する人物
- 常に周囲の期待に応え好印象を持たれる理想的な人物であることを心情としていた
- 唯一天文を自分の好奇心から観測
■ 3. 物語の始まり
- ラファウは異端の罪で捕まった地動説の研究者フベルトと接触
- 地動説という斬新な仮説を聞かされる
- 最初はバカなと思っていたが自身で思考を巡らせるうちに地動説の合理性や美しさに惹かれる
- 説を証明したいと考えるようになる
- 研究や支持がバレれば最悪処刑される世界
- それでも真理を追求したいという好奇心・知性に突き動かされた者たちが地球を動かし始める
- 神童を演じて人生ちょろいと言っていたラファウが自分が信じたいものに出会って損得を考えなくなる展開が熱い
■ 4. フベルトの信念
- ラファウはフベルトに「なぜ神を否定する危険を犯してまで地動説を研究するのか」と質問
- フベルトは「神が作り出した世界を美しいと信じているから」と返答
- フベルトの立場は常識を疑う研究者だがこの世界は美しいはずだという信念がある
- 単に既存の権威や枠組みを疑っているのではなく登場人物それぞれが自分を突き動かす信念を持っている
- 研究者側だけでなく異端を取り締まる異端審問官もそういう風に描かれている
■ 5. 知ることのテーマ
- 作品のテーマの一つとして「知りたいという根源的な知的好奇心」や「物事を知るとは何か」が描かれる
- ラファウは元から天体観測を好んでいたが自分で地動説を研究し始めると星空が昔よりはっきりと見えるようになる
- 知ることで物事の見え方が変わる
- 逆に異端審問官たちは聖書の解釈や教会の規律に拘泥しているため地動説を研究する異端は悪魔に取り憑かれたように見えている
- 知ることで見え方が変わるのは良くも悪くも
- 知識を増やすことで色々な見え方ができるとより世界は面白くなる
■ 6. 史実との関係
- 実際の歴史に基づいてはいないがフィクションとして物語の中では辻褄が合うように設定されている
- あったかもしれない物語として読むのが面白い
- フィクション的な改変が行われている点:
- 地動説の研究・議論自体が禁忌であり迫害されること
- 天動説の正当性(単に宗教的理由で支持されていたわけではなく当時の科学として有力な説だった)
■ 7. ガリレオの宗教裁判
- ガリレオが処罰された理由を地動説を主張したからとするのは少しぎゅっとまとめすぎ
- 実際は地動説を主張したからではなく彼自身の立ち居振る舞いや当時の背景が複合的に絡んだことに起因
- 1回目の宗教裁判のきっかけは弟子に宛てた手紙:
- 地動説の支持と共に聖書の解釈に言及
- 手紙の内容が悪い意味で改変され聖書の内容や聖職者を痛烈に批判したと認識された
- 決め手は『天文対話』の出版:
- 地動説をあくまで仮説として論じることや教皇が指定した文言を入れることなどの条件を反故にした
- プトレマイオスの立場を取るシンプリチオという人物を滑稽なやられ役として描き友人でもある教皇の怒りを買った
- 当時は30年戦争の真っ最中で大きな権威をいたずらに貶める行為は厳しい目で見られた
■ 8. 天動説の科学的正当性
- 天動説は地球が動かないという前提が事実と異なっていたが、昔から観測していた記録やそれに基づいた理論の全てが間違っていたわけではない
- 当時はその理論でかなり多くのことが説明できた
- 本来は必ずしも先進的な科学vs保守的な宗教の構図ではなく科学の真理vs科学の真理という側面があった
- 現代で目にしている学説も現在の最有力説で絶対の真理である保証はない
■ 9. 継承の物語
- 作品では複数の人物が地動説を継承する形で物語が展開(主人公がバトンタッチするイメージ)
- 学問は先人からの継承・積み重ねで発展するものでその基本が可視化された構造
- 超重要キーワードは「タクス(託す)」
- タクスという言葉は不確定要素を多分に含む:
- 託した人が自分の研究を引き継ぐ保証はない
- 引き継いだとしても自分の思い通りに解釈してくれる保証はない
- 否定される可能性も台無しにされる可能性も抹消される可能性もある
- それでも自分が全力で挑んだ成果をこの世界に残しておく
■ 10. ラファウの言葉
- ラファウは異端論者を迫害する異端審問官に対してこう言った:
- 「敵は手強いですよ。相手は僕でも異端でもない。筆跡それは知性だ」
- 仮に自分が倒れたとしても誰かがきっとたどり着くという確信
- 人間はみんな歴史の上に成り立つ
- 人の知的好奇心は止めることができない
- だからこそこの世界に何かを残すことにはきっと意味があるはずだと信じている
■ 11. 文字の奇跡
- 第2章の主人公オグジーは文字が読めない
- とある研究者の女性は「文字はまるで奇跡です」と言う
- 「文字を読む時だけはかつていた人たちが私に向かって口を開いてくれる」
- 自分たちは一つの時代に閉じ込められているが文字があれば過去の人物の言葉を聞け未来の人物に言葉を伝えられることを奇跡と呼ぶ
■ 12. タウマゼイン(驚き)
- 直訳では驚きを表すギリシャ語で知的な発見や疑問から起こる驚きの感情
- 古代哲学者プラトンは対話篇『テアイテトス』の中で「タウマゼインは知を愛し求める者の感情だ。哲学の始まりはこれ以外にはない」と述べた
- 作品中では「はてなと感じること」と説明
- とある人物の結論:
- 「僕もタウマゼインを感じます。それを肯定し続けます。疑いながら進んで信じながら戻って美しさに煌めきに迫り詰めて見せます」
■ 13. メッセージ:考え続けることの重要性
- 知りたい、信じる、疑うの3つを持ち続けはてなと考える重要性が作品のメッセージ
- 現代で天動説を主張したら馬鹿にされるかもしれないが、馬鹿にしている人の中には教科書に書いてあったことと違うからという程度の人もいる
- 自分が生きている時代にこれが常識だよと知識だけ教えられたことを絶対の真実として他人の意見を笑う行為は作中の異端審問官の姿勢と何が違うのか
- 異端審問官たちは天動説を支持しているから間違っているのではなく既存の枠組みを一切疑わず反対意見を異端として全て排除する態度が間違い
■ 14. オグジーの言葉
- 「確かな証拠がない以上最後の最後本当に地動説が真理だとは誰も断言できない。自らを間違っている可能性を肯定する姿勢が学術とか研究には大切なんじゃないか。第三者による反論が許されないならそれは信仰だ」
- 自分の考えは正しいはずだという信念と自分の考えは本当に正しいのかという疑念は両立する
- この2つが両立するから人は迷う、不安になる、怖くなる
- 矛盾ばかりでどうしたらいいのか分からなくなるがそれでいい
- 知りたいという直感に従い、信じるという信念を情熱とし、疑って立ち止まることを恐れない
■ 15. 作品の魅力
- 全8巻の中に名場面・名セリフが目白押し
- 科学や哲学に詳しくなくても情熱や信念をベースに描いてくれるから非常に面白い