■ 1. 導入と背景
- 筆者はBASE株式会社執行役員で金融事業の事業責任者である
- エンジニア→PdM→事業責任者というキャリアを歩んできた
- 現在は事業戦略、プロダクト戦略、組織戦略全ての責任を持ちながら事業責任者を務めている
- 優秀な人の定義は「コンテキストの力を操れているかどうか」である
■ 2. コンテキストの定義
- コンテキストとは「背景」「状況」「文脈」と訳されることが多い
- 優秀な人を言い表す言葉:
- 「1聞いて10わかる」
- 「手段と目的を間違えない」
- 「説明スキルが高い」
- 「アイディアマン」
- これらはコンテキストの力を操れているかどうかで説明できる
- 地頭がいいとか、自分の頭で考えているかどうかとかに近い話である
■ 3. コンテキストの力の要素
- コンテキストの力には以下のような要素がある:
- 容量の大きさ
- 活用効率性
- 内容の質
- 繋ぐ力
- 誤解を恐れず言い切ると、優れたリーダーや事業責任者やPdMはコンテキストの力を操れている人が多い
■ 4. 生成AIとの類似性
- コンテキストの力を操れる人がリーダーや事業責任者やPdMに向いているという持論を持っていた
- 勉強ができるかどうかよりも、コンテキストの力を操れるかどうかが大切である
- 人に話しても芯を食った感じで上手く伝わらずに困っていた
- 生成AIの文脈でコンテキストウィンドウの話が注目されたことで、伝わる人が増えた
- コンテキストウィンドウが増えたことで生成AIが賢くなった
- 実際に人と話したり、人の行動を見た時に、まさに生成AIのアウトプットが良くない時と同じ感覚を抱くことが頻繁にある
- そのような時にコンテキストを操る能力の有無の差を強く感じる
■ 5. コンテキストの力を操れるとは
- コンテキストの力を操れるというのは、前提条件をどれだけ多く保持して活用できるかということである
- コンテキストの活用が上手だと「そもそも見当違いだね」という判断が少なくなる
- 説明もできるようになる
- コンテキストの活用が上手であれば、手段が目的にすり替わりにくくなる
- 逆の例:
- すぐにテンパってしまう人
- 権威のある人の言うことを全て真に受けてしまう人
- 目の前にあるそれっぽい発言に引っ張られてしまう人
- 海外のフレームワークや他社事例を無批判に受け入れてしまう人
- これらはコンテキストを操る力が未熟であり、何かしらの重力に抗えない
- コンテキストを操る力は足腰の強さや体幹の強さに似ている
■ 6. コンテキスト力の特徴
- コンテキスト力が高い人は以下の特徴がある:
- 前提条件や背景を複数抱えたまま判断できる
- 手段が目的化しないよう、常に本来のゴールと照合できる
- 1つのインプットから複数の含意を読み取り、整合性をチェックできる
- とにかく優秀(雑)
■ 7. コンテキスト力の鍛え方:疑う
- 大事なのはコンテキストを肥やす癖をつけることである
- コンテキストを肥やすとは疑うことである
- 目の前で起きたことや人が言っていることを疑いまくる
- なぜなぜ分析をする
- 世界で起きているほとんどのことは嘘であるくらいの勢いでいい
- 疑うというのは関心を持つことである(好きの反対は無関心という世界の捉え方が好き)
■ 8. コンテキスト力の鍛え方:分解する
- 疑う中で分解していく
- できるだけ最小単位まで分解していく
- よくよく分解して一つ一つ嘘じゃないか考えていく
- 考えているだけではわからないので試してみる
- 試して試してPDCAを回していく
- 本当に腹落ちすることを探していく
■ 9. コンテキスト力の鍛え方:繋げる
- 腹落ちしたら還元して繋げていく
- コンテキストは繋がって初めて意味を持つ
- この一連の過程全てがコンテキスト力を鍛えることにつながる
■ 10. 容量を増やすべし
- 容量はシンプルに鍛えれば増える
- 一つの事象が起きた時に背景をどれだけ類推して保持できるかというのは思考体力の話に近い
- 思考体力を鍛えるためには思考することである
- 疑うべきである
■ 11. 効率化するべし
- いくら容量を増やしても無駄遣いしていてはもったいない
- 構造的に整理して保持することが大事である
- 構造的に整理するには分解する
- 分解する力をつける
■ 12. 質を上げるべし
- コンテキストの容量が増えたところで、そこに質の悪いものを詰めていたら意味がない
- 腹落ちしたものを入れるべきである
- 何が腹落ちするかは腹落ちしたという経験からのみしか得られない
■ 13. 繋ぐべし
- 一見一つ一つは意味のないものも繋がることで意味を持つことがある
- 繋がることで意味を持つというのはすなわちイノベーションである
- 頭がキレるとはこういうことである
- 容量を増やすことの意味はここにある
■ 14. 全体観を捉えるべし
- コンテキストって繋がりが大事である
- 要するに全体観が大事である
- 今起きてることに対してコンテキストを掛け合わせていくことで問題を解決していく
- 事業だけとか、プロダクトだけとか、エンジニアリングだけとか、組織だけとか論外である
- 全てのコンテキストを繋げた上で保持する
- 繋げていくのを諦めるのをやめる
- アイディアマンだなーって人とか、鋭い指摘が出来る人はコンテキストを大量に保持して繋げられてるだけである
- 繋げるのを諦めたらイノベーションは生まれない
- 成功の継続フェーズを続けるだけなら分解してってもいいが、イノベーションを望むなら繋げることを諦めない
- マネジメントアップしていったら解像度を下げないといけないとか、なんでも把握したがるのはやめないといけない、みたいな呪いはやめる
■ 15. わかりやすいものに逃げるな
- 海外のフレームワークや他社事例につられてしまうというのは以下の理由による:
- コンテキスト容量が少ないから
- 効率化しないと溢れてしまうのだけれど
- 自分で効率化するのがめんどうだから
- よそで効率化されたものに引っ張られちゃう
- このループに入るとコンテキスト容量が増えていかない(悪循環)
- 要するに逃げている、サボり、コスパ厨である
- 誘惑に負けないでほしい
- 海外のフレームワークや他社事例につられてしまうというのは悪気があるわけではなく、単純にケイパビリティの問題である
■ 16. 他人のコンテキスト力の測り方
- 割とシンプルで、なんでそれをしたのかを聞いた時にちゃんと返せるかどうかだけである
- 10分も話せば大体わかる
- ちゃんとというのは受け売りじゃなくて自分の頭で考えたなということである
- あってるあってないは割とどうでもいい
- むしろわからないことがわかっていた方が好印象である
- 時たま自分の頭で考えているんだけど、それをうまく伝えられない人もいるが、それと考えられていない人の判別もできる
■ 17. コンテキスト力のある人は性格悪く見えがち
- コンテキスト力のある人はある意味性格が悪い
- 疑うが常日頃から身についているので批判的な人に見えることもある
- 成熟したコンテキスト力の高い人は性格の悪さをうまく隠しているか、力こそパワーで切り抜けている
- コンテキスト力の発達段階においては「批判的な割にはたいして説得力のない状態」が生まれることもある
- ここでいう説得力はロジックや内容の話だけではなく、実績や行動も含めた話である
- 「批判的な割にはたいして説得力のない状態」は害悪だがなんとかその状態はうまいこと乗り越えたい
- 発達段階の中で一定必要なものだと思っている
- 自分自身への理解の向上とか周囲の理解とか、そういうものの組み合わせで乗り越えていくしかないがこれが難しい
■ 18. 優秀なリーダーの脱落パターン
- 優秀なリーダーになる素質のある人が途中で脱落してしまう典型例:
- 「批判的な割にはたいして説得力のない状態」でおかしな矯正をされてしまう
- 「批判的な割にはたいして説得力のない状態」ゆえに期待されず任されずに日の目を浴びない
- ブリリアントジャークとか言われて片付けられてしまうケースもある
- この山を乗り越えるのに必要なのは周囲の愛である
- 愛が獲得できるかどうかには愛嬌があるかどうかなど生まれ持った(ように見える)パラメーターや、理解のある上司がいるかなどの運要素が絡んでくる
- 筆者は「批判的な割にはたいして説得力がない状態」を乗り越える手助けがしたいと思って発信活動をしている
- なんとか広く色々な人に再現性を持って「批判的な割にはたいして説得力のない状態」を抜けて欲しい
■ 19. 育成とピープルマネジメント
- 普段の発言から事業とかプロダクトがファーストで育成はただの手段みたいなキャラだと誤解されてる節があるが、育成とかピープルマネジメントがファーストである
- でも育成本気でやるなら事業を成功させるしかない
- なぜなら事業成功した時に人は1番成長するから
■ 20. 結論
- 要するに自分の頭で考えることをサボるなということである
- 自分の頭で考え続けて自分の言葉で伝える、これが大事である
- 1年間note書いてきたが、ほとんどこれしか言っていない
■ 1. 総合評価
- この文章はビジネス自己啓発エッセイとしては読みやすいが、論理的厳密性を欠き、主張の実証性が極めて低い
- 「コンテキストの力」という概念を中心に据えているが、その定義が曖昧で、主張の多くがトートロジー(同語反復)と循環論法に陥っている
- 経験則を普遍的真理として提示する傾向が強く、反証可能性がほぼゼロである
■ 2. 中心概念の定義が不明確
- 「コンテキストの力」の定義が抽象的で操作的定義(測定可能な定義)が欠如している
- 論理的欠陥:
- 「背景」「状況」「文脈」という訳語を提示するだけで具体的に何を指すのか不明
- 「前提条件をどれだけ多く保持して活用できるか」という説明も曖昧
- 「容量」「効率性」「質」「繋ぐ力」という4要素を挙げるがそれぞれの定義も不明確
- 結果として著者の主観的印象以外に「コンテキストの力が高い」を判定する客観的基準がない
- 抽象的な説明ばかりで「コンテキストの力が高い人」の具体的な行動例や発言例がほとんど示されていない
■ 3. トートロジーの連鎖
- 優秀な人の定義が循環している
- 論理構造:
- 優秀な人=コンテキストの力を操れる人
- コンテキストの力を操れる人=「1聞いて10わかる」「手段と目的を間違えない」人
- これらの特徴を持つ人=コンテキストの力がある人
- つまり優秀な人=優秀な特徴を持つ人
- 論理的欠陥:何も説明していない。単に「優秀な人は優秀だ」と言い換えているだけである
■ 4. 因果関係と相関関係の混同
- 著者の主張:「優れたリーダーや事業責任者やPdMはコンテキストの力を操れている人が多い」
- 論理的欠陥:
- これは相関関係の観察(仮にデータがあったとして)
- しかし著者は「コンテキストの力があるからリーダーとして優秀」という因果関係を前提にしている
- 逆の因果(リーダー経験が豊富だからコンテキスト力が高く見える)の可能性を検討していない
- 第三の変数(例:教育水準、社会経済的背景)の影響を考慮していない
- そもそも統計的検証が一切ない
■ 5. 恣意的な分類と藁人形論法
- 著者の主張:「海外のフレームワークや他社事例を無批判に受け入れてしまう人」をコンテキスト力が低い例として批判
- 論理的欠陥:
- フレームワークや事例の活用≠無批判な受け入れ
- 優秀な人ほど既存の知見を効率的に活用する(車輪の再発明を避ける)
- 著者は極端な例(無批判に受け入れる人)を設定して批判しているが、これは藁人形論法
- 実際にはフレームワークを自社の文脈に適合させる能力こそが重要だが、この視点が欠落
- 矛盾:著者自身が「生成AIのコンテキストウィンドウ」という他所の概念を借りて説明している。これは二重基準である
■ 6. 測定方法の主観性
- 著者の判定基準:「10分も話せば大体わかる」「なんでそれをしたのかを聞いた時にちゃんと返せるか」
- 論理的欠陥:
- 完全に主観的な判断基準
- 「ちゃんと」の定義が不明確
- 「受け売りじゃなくて自分の頭で考えたな」をどう判別するのか具体的手法がない
- 面接官バイアス、確証バイアスの影響を全く考慮していない
- 再現性や客観性がゼロ
■ 7. 疑うことの危険性を無視
- 著者の主張:「世界で起きているほとんどのことは嘘であるくらいの勢いでいい」
- 論理的欠陥:
- 過度の懐疑主義は認知的麻痺を招く(何も信じられなくなる)
- 専門家の知見や科学的コンセンサスを軽視する態度は反知性主義に繋がる
- 「疑う」と「批判的思考」は異なる(批判的思考には建設的な検証プロセスが含まれる)
- 陰謀論者も「疑う」ことに長けているが、それは知性の証明にならない
■ 8. 矛盾する主張
- 問題A:
- 「マネジメントアップしていったら解像度を下げないといけないとか、なんでも把握したがるのはやめないといけない、みたいな呪いはやめる」
- つまりリーダーは全てを把握すべき
- 問題B:
- しかし組織論や認知科学では情報処理能力の限界から、階層的な組織構造と情報の抽象化が必要とされている(スパン・オブ・コントロールの概念)
- 論理的欠陥:著者は組織規模の拡大に伴う認知的限界を無視している。これは理想論であり実行可能性が疑わしい
■ 9. 生成AIとの類推の不適切さ
- 著者の主張:人間の思考をAIのコンテキストウィンドウに喩えている
- 論理的欠陥:
- AIのコンテキストウィンドウは単なるトークン数の制約
- 人間の認知は連想記憶、感情、無意識の処理などはるかに複雑
- この喩えは表面的で、実際には人間の思考プロセスを単純化しすぎている
- 「コンテキストウィンドウが増えたことで生成AIが賢くなった」のは事実だが、それが人間にも当てはまる根拠はない
■ 10. 証拠の完全な欠如
- 主張の全てが個人的経験と印象に基づいている
- 論理的欠陥:
- 実証研究への言及がゼロ
- 心理学、組織行動学、認知科学の既存研究との接続がない
- サンプルサイズ不明(著者が何人を観察したのか?)
- サンプル選択バイアス(著者の周囲の特定業界・特定職種の人々のみ)
- 統計的検証なし
- 科学的方法論の欠如:仮説の提示→検証→反証→修正というプロセスが一切ない
■ 11. 反証可能性がない
- この理論を反証する方法が存在しない
- 論理的欠陥:
- 「コンテキストの力が高い人は優秀」という主張はどんな事例にも適用できてしまう
- 失敗したリーダー→「コンテキストの力が足りなかった」
- 成功したリーダー→「コンテキストの力があった」
- つまり理論が間違っていることを示す方法がない(カール・ポパーの反証可能性の原則に反する)
■ 12. 説得力を損なう要素
- レッテル貼りと攻撃的表現:
- 「逃げている、サボり、コスパ厨」
- 「論外である」
- こうした断定的で攻撃的な表現は議論の質を下げる
- 自己正当化バイアス:
- 「批判的な割にはたいして説得力のない状態」を擁護する部分は著者自身の過去の経験を正当化しているように見える
- 「性格が悪く見えるのは成熟していないだけ」という論理は単に傲慢な人を擁護している可能性
- 曖昧な言葉の多用:
- 「腹落ち」「繋がる」「全体観」など感覚的な言葉が多く明確な定義がない
- これらは読者に理解した気分を与えるが実際には何も伝えていない
- 権威づけの不足:
- 著者の肩書きは示されているが主張を裏付ける専門性(組織心理学、認知科学などの学術的背景)が不明
- 「BASE株式会社執行役員」という肩書きはこの理論の妥当性を保証しない
■ 13. 欠けている視点
- 認知的限界の考慮:
- 人間のワーキングメモリは有限(マジカルナンバー7±2)
- 情報過多は意思決定の質を下げる(分析麻痺)
- これらの認知科学の知見が完全に無視されている
- 文脈依存性:
- 「コンテキストの力」が高いことが常に有利とは限らない
- 緊急時には迅速な判断(ヒューリスティック)が必要
- 過度の分析は機会損失を招く場合もある
- 組織的要因:
- 個人の能力だけでなく組織構造、文化、インセンティブ設計が重要
- 「コンテキストの力」だけでリーダーシップを説明するのは還元主義的
- 多様性の価値:
- 異なる認知スタイルを持つ人々の協働が組織の強みになる
- 全員が「コンテキストの力」型の思考をする必要はない
- 実践的ガイダンスの不足:
- 「疑え」「分解しろ」「繋げろ」は抽象的すぎる
- 具体的なワークフロー、ツール、練習方法の提示がない
■ 14. 構造上の問題
- 論理展開の非線形性:
- トピックが散漫に行き来し体系的な論証になっていない
- 結論(自分の頭で考えろ)は冒頭で言えることで長い論考を経る必要がない
- 冗長性:
- 同じことを言葉を変えて繰り返している(特に後半)
- 情報密度が低い
- 結論の弱さ:
- 「要するに自分の頭で考えることをサボるな」という結論は当たり前すぎる
- 長い論考の末に到達する結論としては物足りない
■ 15. 肯定的評価
- 良い点:
- 問題意識は妥当:思考の浅い人、フレームワークに頼りすぎる人は確かに存在する
- 一貫したメタファー:生成AIの比喩は分かりやすい(ただし論理的妥当性は別問題)
- 育成への関心:人材育成を重視する姿勢は評価できる
- 率直な文体:忖度のない語り口は読みやすい
■ 16. 結論
- この文章は個人の経験則に基づくビジネスエッセイとしては一定の価値があるかもしれないが、論理的・科学的な主張としては極めて脆弱である
- 主な問題点:
- 定義の不明確性:中心概念が測定不可能
- 実証性ゼロ:データも研究も引用もなし
- 循環論法:優秀な人は優秀、としか言っていない
- 反証不可能:どんな事例でも説明できてしまう(疑似科学の特徴)
- 矛盾した主張:組織論の基本原則を無視
- 攻撃的なトーン:異なる認知スタイルへの不寛容
- 格付け:論理的説得力★☆☆☆☆(5点満点中1点)
- 著者の実務経験から得た直感は尊重するが、それを普遍的理論として提示するにははるかに厳密な論証と実証が必要である
- 現状では「私はこう思う」以上の主張になっていない