■ 1. 導入:陰謀論を倒す方法
- 陰謀論を倒す手っ取り早い方法は「別の陰謀論で上書きすること」
- 本の紹介:『エビデンスを嫌う人たち - 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか』
- サブタイトル:科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか
- 哲学者が科学否定の問題をどう解決するのかをマジで考えた本
■ 2. ローマ皇帝ネロの陰謀論対策
- 西暦64年、ローマの大火という1週間にも渡る巨大な火事があった
- 時の皇帝ネロは別の町にいたため被害を逃れた
- 民衆は「皇帝が都合よく都市を作り替えるために燃やしたんじゃないか」という陰謀論を流した
- ネロは否定し、復旧作業にもお金を払っていた
- しかし陰謀論は全く消えなかった
- ネロは「この火事はキリスト教徒によって起こされたんだ」という別の陰謀論を流した
- 結果、責任が全部キリスト教徒に押し付けられ、キリスト教徒が処罰された
- この逸話が示すのは陰謀論はそれだけ強力ということ
- どれだけ正しい情報を論理的に与えても治らなかった
■ 3. バックファイア効果の真実
- バックファイア効果:自分の信念と異なる証拠を突きつけられると、かえって自分の元の信念を強固にしていく現象
- 2010年に発表された論文で解かれた
- 正しいことを伝えたのに誤った信念が強化されたという研究結果が脅威的に拡散された
- この研究結果から「対話放棄の姿勢」が生まれた
- どんなに正しいことを伝えても無駄という話になり、「陰謀論にはまってるやつはもうほっとくしかない」という考えが広まった
- しかしその後様々な再現実験をした結果、バックファイア効果は怪しいということが分かった
- いろんな実験で再現しようとしたがほぼ再現されなかった
- 提唱者自身も「これほぼ存在しないか、仮にしたとしてもごくわずかな効果しかないっぽい」と認めた
- 新しい実験結果を見ると、訂正情報は平均するとちゃんと有効で人々の間違いを減らすということが分かった
- この研究結果を踏まえてTwitterのコミュニティノートという新機能が実装された
■ 4. 著者自身の陰謀論
- 著者自身がバックファイア効果を信じていた
- 「アホには何言っても無駄だ」というシニカルな霊勝主義者として暮らしていた
- しかしバックファイア効果が間違ってますよという情報訂正が入ってこなかった
- 皮肉なことに陰謀論に囚われていた
- YouTubeやってて助かるのは間違ったこと喋ると即座にコメントで訂正されること
- 発信してない人は訂正される機会が少ない
- だからこそ対話が大事
■ 5. フラットアース国際会議への参加
- 著者は地球が平面だと信じる人たちの国際会議(フラットアース国際会議)に参加した
- スパイであることがバレないかドキドキしながら参加者と話しまくった
- 地球平面説の進者の主張は「すごいバカ」
- 例:NASAの正式名称の各アルファベットに数字を振って全部足すと666(悪魔の数字)になる
- 陰謀の首謀者は誰かと聞くと「悪魔だ」と答える
- 権力中枢にいる人はほぼ全員悪魔だと信じている
■ 6. 地球平面説信者の実験
- ドキュメンタリー『ビハインド・ザ・カーブ』で紹介された例
- 地球平面説信者のエンジニアが地球が回ってないことを証明しようとした
- めちゃくちゃ精度の高いジャイロスコープを2万ドル(約200万円)で買った
- 計測したところ1時間に15度回転しているという値が出た
- これはぴったり地球が回っていると考えた時の数字
- エンジニアは「ちょっと問題だな。これは絶対に認められない。この装置が地球の動きを本当に記録しているわけじゃないとなんとか証明しなくちゃならない」と言った
- 証拠が出てきたらそれをなんとかして無視するという発想
■ 7. フラットアース信者の背景
- 著者がマジで参加者の色んな人に話しかけていっぱい話を聞いた
- あることに気がついた:この学会で話した多くの人は人生における大きなトラウマを抱えていた
- 典型的には9.11のテロ被害あるいはひどいいじめみたいな個人的な人生における悲劇
- そういう何らかの大きな被害があってその時期にフラットアースを信じることになった人がほとんどだった
- フラットアースとは傷ついてしまった人たちの心の寄り所
■ 8. 阻害と陰謀論の関係
- フラットアーサーの多くが社会から阻害されつまはじきにされているように見える
- その理由を彼らの特殊な信念に求めるのは簡単
- フラットアーサーが「地球は平面だ」という主張故に迫害され、家族・友人・共同体・職場などにおいて大きな代償を払っているケースは実際によくある
- しかし「もし彼らが最初から阻害されていたとしたら、それが原因でフラットアースに近づくこともあるのではないか」
- 陰謀論に入ることでより職場から阻害されていく
- 本当の敵は孤独
- 孤独だから依存を深めていくしかない
■ 9. 陰謀論の魅力
- 自分の人生がうまくいかず社会に馴染めない、チャンスがない、望むようなキャリアや私生活は決してないと感じていたとする
- こうした現状全てを巨大な陰謀論で説明することに魅力を感じないだろうか
- 陰謀論はスパッとしてるから気持ちいい
- 科学者は誠実だから正確な喋り方をする→はっきりしない
- はっきり言う人の方が評価を得られるという皮肉
■ 10. フラットアースとアイデンティティ
- フラットアースは実は証拠とは一切関係がない
- 彼らにとっての証拠とは自分の社会的アイデンティティを正当化する便利な手段に過ぎない
- だからこそ彼らは自分の信念に異議を唱えられるとそれを自分個人に向けられた批判と受け取ってしまう
- 人生を否定されている
- フラットアースは科学的な理解ではなく自分のためのアイデンティティ
- 傷ついて行き場がなくアイデンティティが傷つけられた人がすがるための別のアイデンティティ
■ 11. 白人至上主義者の改心
- 白人至上主義者の息子に生まれた筋金入りの白人至上主義者がいた
- 幼少期から「黒人っていうのは劣った存在なんだよ」と父親にずっと言われて育った
- 大学に入った後いろんな人種の人と自然にコミュニケーションを取るようになった
- ユダヤ人の人と仲良くなった
- 人種差別主義者であることを打ち明けた
- 彼らは驚きつつも落ち着いてそれを受け入れてくれた
- 常にランチをしながら普通の世間話もしながら時々その人種差別的なことを言い出すと「いやそれはね、違うと思うよ」と言い続けた
- 何度もそれに触れるうちに帰り道などでそういうことについて考える機会が増えた
- 長い期間をかけて徐々に受け入れていった
- 重要なのは「彼らが色々話してくれた。そうした意見にいつも賛成できるわけではなかったが、僕は彼らの話を聞き、彼らもまた僕の話を聞いてくれたのです」
- 相手の話を聞くだけじゃなくこっちの話を聞いてもらえるという体験
■ 12. 対話の方法論
- フラットアース国際会議での「みんなをフラットアースに勧誘する方法」という演目
- 陰謀論者を抜け出させるための方法と全く同じだった
- まずは彼の話をじっくり聞いてコミュニケーションをしっかり取って長い期間をかけて実は地球は平面だったんじゃないかと少しずつ考えてもらう機会を増やすことが大事
- 陰謀論との戦いは人材合戦
- 信じてる人同士が必死にお互い同じ手口で味方を作りに行って奪い合っている
■ 13. 遺伝子組み換え作物をめぐる対話
- 著者が40年来の友達の科学否定論者と本気で初めて話し合った
- 友人は科学者なのに遺伝子組み換え作物反対派
- 科学会のコンセンサスは遺伝子組み換え作物は無害だが、友人は有害なんじゃないかと主張
- 友人の主張:外来種みたいなもので後の生態系への影響が保証しきれない
- 著者の反論:これって突き詰めると反ワクチン派と同じじゃないか
- 友人:ワクチンには公共の側面もあるが遺伝子組み換え作物は個人的な問題
- 著者:いや、これは公共の問題。君みたいな反対派がたくさん反対するから特定のビタミンをたくさん含有した米が出回らず、アフリカの子供たちが死んでいる
- 友人:なるほどその視点はなかった。考え直す必要があるかもしれない
- 結果:お互い考えは変わってないが「そういう考えがお互いあることが分かった」
- 著者のまとめ:「遺伝子組み換え作物に関する対話では私は彼を説得できなかったし彼も私を説得できなかった。だからこの対話はまだ終わっていない。それでいいのだと思う」
■ 14. 結論
- 対話が大事
- 楽な方法なんてない
- SNSで発信してみんなの意見を変えようとかじゃなくて、友達が何か危ない思想に囚われてたりあいつ思想危ないなって思った時にはじっくり対話してほしい
- 分かりやすい結論に飛びつく陰謀論を信じてしまう人を楽してるなって思っていた
- でもそう思う自分こそが楽をしていた
- 身近な人がちょっとおかしい道に行っていて「この変な思想に囚われちゃったからもう会うのやめよう」じゃない
- 継続的なコミュニケーションを取り信頼関係を築くことが重要