■ 1. 生成AIがもたらした変化の実例
- 東京大学の小川光教授の経験:
- 経済学を学んだことがない学外の大学院修士課程の学生が論文を持参
- フィールドトップの学術誌に挑戦できるレベルの内容だった
- AIとの対話だけでどこまでの研究ができるかを1年間かけて試した結果
- 研究アイデアの着想から英文論文化までAIツールを組み合わせてほぼ独学で完成
- 生成AIの本質的な影響:
- 研究のハードルを下げたのではない
- 研究という営みの本質を年齢や経験や作業量から切り離して露わにした
- 研究者だけでなくエンジニアやコンサルタントや企画職など知的な仕事全般に共通する不可逆な変化
■ 2. 従来の知的な仕事における参入障壁
- 学術研究における参入障壁:
- 膨大な先行研究を読み解く語学力と体力
- 複雑な統計分析をコーディングする技能
- 作法を身に付けるための長い修行期間
- 年齢や経験の蓄積と強く結びついていた
- 企業現場における参入障壁:
- 見やすい資料を作るスキル
- 議事録を正確にまとめる能力
- ビジネスメールの作法
- 一人前になるための参入条件として機能
- 若手の訓練方法:
- 既存の枠組みを丁寧になぞり少しだけ改変する仕事
- 合理的なOJTとして機能してきた
■ 3. 生成AIによる参入障壁の無効化
- 技術的な差が消失:
- 英語の論文を読む能力
- Pythonで分析用プログラミングコードを書く能力
- 報告書を整える能力
- やり方を知っているかどうかで決定的な差がつかなくなった
- 知的な仕事を支えていた技術的な修練そのものの希少性が急速に失われている
■ 4. 作業の壁が消えた後に残った価値
- ごまかしの効かない4つの能力:
- なぜいまそれをやるのかという動機
- 何が本質的な問題なのかという問い
- AIが出した結果は妥当なのかという判断
- どこで十分として止めるのかという決断
- これらの特徴:
- 生成AIが代行できない
- 年齢や肩書とほとんど関係がない
- 現実に起きている逆転現象:
- 鋭い問題意識を持った学部生が漫然と過ごした経験豊富な研究者よりはるかに筋のよい問いを立てることがある
- あらゆるビジネス現場で同様のことが起き始めている
- 変化の本質:
- 仕事のレベルが下がったのではない
- 仕事が成立する条件が純化され本質的な問いの質だけで勝負が決まるようになった
■ 5. 若手にとっての残酷な側面
- 価値を失ったもの:
- 訓練として機能してきた安全な微修正
- 丁寧さで評価される下積み
- 生成AIが最も得意なこと:
- 既存の枠組みを踏まえたもっともらしい改善
- 若手が直面する状況:
- 練習する場を奪われた
- いきなりプロと同じ土俵で本質的な問いや独自の判断を求められる
- 資料作成やデータ整理で先輩に褒められながら少しずつ勘所を養うという梯子は外された
- 厳しい現実:
- チャンスであると同時に中途半端な人材には居場所がない非常に厳しい世界の到来
■ 6. 経験を持つベテランにとっての解放
- これまでのベテランのボトルネック:
- 体力と時間
- 老眼などの身体的衰え
- 複雑な作業を根気よくこなす余力の減少
- 新しいプログラミング言語を覚える負担
- 経験の発揮を妨げていた
- 生成AIによる制約の解消:
- 面倒な作業や実装を外部化できる
- 長年の経験に裏打ちされた直観や大局観が純粋な形で仕事に反映される
- 知的な仕事全体の職業寿命を劇的に延ばす変化
■ 7. 結論:早期本質化の時代
- 生成AIがもたらしたもの:
- 知的な仕事の民主化ではない
- 知的な仕事の早期本質化
- 早期本質化の意味:
- 能力が育つのを待って評価されるのではなく最初から本質を持っているかが問われる
- 専門家に必要な資質:
- 問いを立てる力
- 意味を与える力
- 判断する力
- これらが非常に早い段階で年齢に関係なく可視化されるようになった
- 作業ができることはもはや知的な仕事の条件ではない
- 残酷かつ公平な事実が研究室からオフィスまであらゆる場所で露わになっている