この課題の改善に乗り出したイギリス・サウサンプトン大学の博士研究員であるYuhao Lei氏らの研究チームは、「高繰り返しフェムト秒レーザー」を利用してガラスに500×50ナノメートルの小さなナノ構造を形成させました。この時、研究チームはフェムト秒レーザーでガラスに直接書き込みをするのではなく、「近接場増幅(near-field enhancement)」という光学現象を使いました。弱い光パルスを使ってナノ構造を形成するこの手法により、高繰り返しレーザーを使う上で問題となっていた熱損傷を最小限に抑えることが可能になったとのこと。
ナノ構造には異方性があるため複屈折が発生し、これによりガラスに書き込んだナノ構造の「向き」や「大きさ」を制御できます。この光学的な2次元と空間的な3次元の書き込みを組み合わせることで、研究チームは従来よりも高速で書き込み可能な5次元データストレージを作り出すことに成功しました。
Lei氏は、「この新しいアプローチによりデータの書き込み速度が実用レベルまで向上し、大きなデータを合理的な時間で書き込むことができるようになりました。この技術は、局所性の高いナノ構造により高いデータ容量を達成できるだけでなく、比較的低エネルギーで書き込みができるパルス光を採用したことで、消費エネルギーの削減も可能です」と話しています。
研究チームは、この技術を使って普通のCDと同じ大きさのガラスディスクに5GBのテキストデータをほぼ100%の精度で書き込むことができました。今後システムをさらに改良すれば、CDサイズのガラスディスクに500TBのデータを約60日間で書き込むことも可能とのこと。5次元データストレージには半永久的にデータを保管できるという強みがあることから、Lei氏は「クラウドはあくまで一時的にデータを保管することを前提としていますが、ガラスを使った5次元データストレージは国立図書館や博物館などの長期的なデータストレージとして有用だと考えています」と述べました。