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放射光施設でLEDが壊れる?その原因を解明

大型放射光施設「SPring-8」は、SDGsや2050年カーボンニュートラル達成に向けた研究を支える施設で、施設のグリーン化も積極的に進めています。しかし、その過程で意外なところにネックがあったのです。高エネルギーの電磁波である放射線にさらされると、長寿命のはずのLEDが数カ月で点灯しなくなってしまいました。田中 均グループディレクター(GD)らはその原因を究明し、驚くほど簡単な解決方法を見いだしました。

電源部にX線を試験的に照射し(図1)、照射量と電気的な特性の変化を調べたところ、照射量がある数値を超えると急に漏れ電流が増加し、故障した。「もしかして、これは漏れ電流が引き起こす"熱暴走"では?」と考え照射量と温度の関係も調べた。その結果、漏れ電流が一定量を超えると素子の温度が急上昇し、それが電流の漏れを加速、そして電流が漏れると温度上昇をさらに加速するという熱暴走の様子を捉えた(図2 赤丸と青四角)。発端となる電流の漏れが始まるポイントを調べるために、さらに精密な漏れ電流計測を行った。その結果、電流は、あるX線照射量で急に漏れ始めるのではなく、徐々に進行していると分かった(図2 緑ひし形)。

すると今度は「なぜ放射線が当たると電流が漏れるのか?」という疑問が湧いてきた。調べるうちに、LED材料に関する論文に「放射線照射で生成された正孔(電子が抜けた部分)が絶縁膜表面に捕捉される、半導体との界面に正の電荷が溜まる」という記述を見つけた。

そこで「ゲート電圧がかかっていないのに、かけている状況になって流れないはずの電流が流れてしまうのか」と気付いた。これは、素子のソースとドレイン間に電圧を印加しなければ起こらない現象だ。議論を重ねる中で「だったらMOSFET電圧を印加しない、つまり照明を消していれば放射線が当たっても故障は起きないのではないか」とひらめいた。

早速、照明を消してX線を照射し、漏れ電流を測定するときにだけ照明を点灯して実験を行った。すると予想通り、照明をつけっぱなしのときならLEDを故障させてしまうX線量の10倍量を照射しても漏れ電流の急激な増加は起きず、LEDも故障しなかった。