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人間が読書できるのは「もともと別の機能があった脳の領域をリサイクルした」からと示す研究結果

研究では、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)研究という方法により、記述された単語を脳が処理するときに機能する視覚単語形式領域(VWFA)と呼ばれる領域を特定しました。VWFAはごちゃまぜになった文字群から単語を抜き出したり、文字のつながりから単語を認識したりといった能力を発揮しますが、VWFAは物体の識別に関与する視覚野の一部である下側頭皮質(IT皮質)と呼ばれる領域に位置していたそうです。

研究に参加したコレージュ・ド・フランスの実験的認知心理学教授であるスタニスラス・デハーネ氏によると、「人が読み方を学ぶと、IT皮質の一部が記述された単語を認識するために特殊な発達を見せる」ことが、以前から発見されていたとのこと。しかし、個々のニューロンのレベルでどの領域がどれくらい再利用されているかをテストするには、技術的な限界があったそうです。そこで研究者たちは、霊長類の脳には元来テキストを処理する素因があってそれを利用しているだけだとしたら、人間以外の霊長類が文字を見た時の神経活動にも、その素因が反応するパターンを見つけることができるかもしれないと仮説を立てました。

この研究によると、読み書きによって脳に新しい機能が追加されたわけではなく、脳に元から備わっている機能の一部が代替していると考えられるそうです。このことから、意味のない単語と意味のある単語を区別したり、単語から特定の文字を取り出したりといった読書能力に関連したタスクは、読み方を知らないヒト以外の霊長類でさえ可能であることが示唆されました。実際に2012年に学術誌のScienceに掲載された研究では、ヒヒが単語と非単語を区別することを学ぶことができるとフランスの認知心理学者が示しています。