欧州原子核研究機構(CERN)は8日(仏時間)、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)における大型イオン衝突型加速器実験(ALICE)の検出器において、鉛原子核の“ニアミス衝突”により、鉛を金に変換できたことを検出したと発表した。この論文はPhysical Review Journalsに掲出された。
卑金属である鉛は82個の陽子があり、貴金属である金には79個の陽子がある。鉛の中の陽子を3つ減らすことができれば、金になるというわけだ。以前、自然な放射線崩壊や中性子/陽子の照射により重元素をほかの元素に変化させる方法で、人工的に金を生成した例があるが、今回研究チームではLHCにおける鉛原子核のニアミス衝突という新しいメカニズムを用いて鉛から金への変化を測定した。
分析によれば、LHCのRun 2(2015~2018年)では4つの主要実験で約860億個の金の原子核が生成されたが、質量に換算するとわずか29pg(ピコグラム)だった。装置の定期的なアップグレードにより、Run 3ではRun 2のほぼ2倍の量の金が生成されたが、それでも宝飾品1個を作るのに必要な量の何兆分の1にも満たないとしている。
鉛を金に変える「錬金術」は、中世の錬金術師の長年の追求だった。異なる化学元素であるため、化学的な手法では変換できないことが後に明らかになったが、20世紀の原子核物理学の進化によって可能性を見いだした。今回、錬金術師たちの夢は技術的に実現したものの、「富への希望は再び打ち砕かれた」とリリース内で記載されている。
その一方で、今回の結果は電磁解離の理論モデルをテスト、改善するもので、本質的な物理的関心を超え、LHCや将来の加速器の性能に対する大きな制限であるビーム損失を理解し、予測するために活用されるとしている。