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承認欲求というのは存在しない

要約:

■ 1. 承認欲求はなぜ広まったか

  • 言葉の歴史: 「他者から認められたい」という概念自体は古くから存在し、心理学で研究されてきた。しかし、「承認欲求」という言葉が一般的に使われるようになったのは、SNSの普及以降のここ数年である。
  • 背景: 承認欲求の広まりは、人類の進化の歴史、特に「仲間殺し」から逃れるための生存戦略と深く関連している。

■ 2. 人類進化の歴史と生存戦略

  • 仲間殺しの時代: 狩猟採集時代から農耕社会にかけて、仲間による殺害が主要な死因の一つであった。これは縄張り争いや序列、富の奪い合いなどが原因であった。
  • 進化の適応: 仲間殺しから生き残るため、人類は「噂話や悪口」を情報交換システムとして発達させた。これにより、集団内で誰が危険人物かを把握し、直接的な対立を避けつつ、安全に相手を排除する戦略を獲得した。
  • 脳への影響:
    • 報酬系: 噂話や悪口を共有することは、脳の報酬系を刺激し、快感をもたらす。
    • 身体的痛み: 社会から排除されることは、脳にとって身体的痛みと同様のストレスとなる。
    • 自己防衛: 「いじめられるより、いじめる側に回る方が安全」という本能的な思考が形成された。

■ 3. SNSが引き起こす脳の誤作動

  • ダンバー数: 人間の脳は、安定した人間関係を維持できる人数の上限(約150~200人)を前提に最適化されている。
  • SNSの巨大なネットワーク: SNSは、ダンバー数をはるかに超える数百万~数億人規模の繋がりを可能にした。人間の脳は、この巨大なネットワークを「膨張した狩猟採集集団」と誤認してしまう。
  • 「承認欲求」の正体: SNSでの自己アピールは、「仲間から排除されないために自分の存在意義を示さなければならない」という原始的な生存本能の誤作動である。本来の承認欲求は、小規模な集団で自分の価値を周知させることで満たされたが、SNSでは無限の自己アピールを求められる。
  • 「炎上」の正体: SNSでの炎上や誹謗中傷も、同様の誤作動である。「殺される側より殺す側に回る方が安全」という本能が働き、自分の身代わりとなる標的を無意識に探し、攻撃することで一時的な安心感を得ている。この行為は「正義感」や「倫理観」で正当化されることが多い。

■ 4. 結論

  • 現代の知恵: 「承認欲求」も「SNS上の異常な攻撃性」も、仲間殺しを回避するための原始的な防衛反応が、想定外の巨大なSNS環境で誤作動を起こしている結果である。
  • 課題: この脳の原始的な反応を理解し、うまく飼い慣らすことが、現代社会を生き抜くための新たな知恵として求められる。