学術誌に掲載される論文の中には不正な論文がわずかに含まれており、掲載されて数年経過してから不正が発覚することもあります。そんな不正論文について、「不正論文を作成する大規模な組織が存在し、急速に成長している」とする研究結果が米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。
不正論文が学術誌に掲載されるまでのプロセスには、組織的な不正が関係していることも明らかになっています。例えば、オープンアクセスジャーナルの出版社であるFrontiersは2025年7月29日に「Frontiersの編集者と著者によって構成された査読操作ネットワークを発見した」と報告しました。発見された組織はFrontiersの学術誌に掲載された122本の論文に関わっていたほか、他の7つの出版社で合計4000本以上の論文を発表していたことも明らかになっています。
ベルリン自由大学などの研究者からなる研究チームは、不正に関連している編集者の実態を調査するべく、編集者情報を公開している出版社としてPLOS ONEとHindawiを研究対象として選択。2023年11月8日までにPLOS ONEに掲載された論文と2024年4月2日までにHindawiに掲載された論文の情報を収集し、論文フィードバックプラットフォームのPubPeerに投稿された不正情報と照らし合わせました。
分析の結果、33人の編集者が偶然では説明できないほどの高い頻度で「後に撤回または批判された論文」の掲載に関与していたことが判明しました。ある編集者は、担当した79本の論文のうち49本が掲載後に撤回されていました。
また、不正に関係している編集者が特定の著者の論文を高頻度で担当していることも発覚。これらの著者はPLOS ONEの編集者を兼ねていることも多く、「PLOS ONEの編集者同士で、互いの論文を担当しあっている」という事例も確認されています。同様の傾向はHindawiでも確認されました。
研究チームは、不正論文を学術誌に掲載する組織だった「論文工場」が存在すると指摘しています。以下のグラフは黒線が科学論文の公開数、赤線が「論文工場」が関与した不正論文の数を示しています。公開される論文の数は増加傾向にありますが、それ以上の勢いで論文工場による不正論文の数が増えていることが分かります。研究チームは今後も不正論文の数は急増を続けると推測しています。