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自閉症の魚から脳科学の常識を覆す、ASD研究のブレイクスルー

人間関係やコミュニケーションに困難を抱える自閉症スペクトラム(ASD)は遺伝的な要因が大きいとされるが、生活環境の変化に強く反応することが、小さな自閉症の魚を使った実験でわかった。また、そうなるメカニズムも解明され、ASDを抱える人たちの行動改善につながる可能性が示唆された。

新潟大学は、ある遺伝子を変異させたゼブラフィッシュという小さな魚を使って実験を行った。ASDには、UBE3A遺伝子の機能異常が関連していることがわかっている。そこで、UBE3Aを変異させて人工的にASDの遺伝的素因を持たせたゼブラフィッシュを作った。

これを、普段から住み慣れているアクリルの水槽から、白い発泡スチロールの水槽に移して行動を観察したところ、いつもと違う環境でストレスがかかったASDのゼブラフィッシュは、健常な野生型の魚たちとの接触回数や接近時間が減少した。

また不安反応に関する実験によって、不安が低いときはほかの魚たちと交わり、不安が高くなると距離を取るようになることもわかった。

ではなぜ、ゼブラフィッシュの不安反応が変わるのか。脳の活動領域を見る神経活動マッピングと、遺伝子の発現を調べるRNAシーケンシング解析という手法を用いて調べたところ、ゼブラフィッシュの目から入った視覚的な「環境信号」が不安を起こさせる遺伝子の発現を増やすこと、そして感覚経路の異常も明らかになった。UBE3Aを変異させたゼブラフィッシュはもともと不安が行動に与える影響が大きいが、こうした要因によりその振れ幅が大きくなるわけだ。

つまり、強い不安反応は視覚情報処理の異常によるものだった。ASDゼブラフィッシュは、発泡スチロールの水槽では不安が高まり警戒モードとなるが、いつもの水槽に戻されると社会的行動が改善した。

これは、「環境刺激の工夫」によりASDに関連する行動上の課題が改善される可能性を示唆している。新潟大学は、これを受けて今後、人を対象とした「環境にもとづく介入戦略」の開発を目指すという。