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再現に失敗した有名な認知心理学実験まとめ

要約:

■ 1. 「再現性の危機」の概要

  • 定義: 2010年代初頭から心理学や社会科学などの分野で顕在化した問題である。過去に発表された研究結果の多くが、他の研究者による追試で再現できない状態を指す。
  • 現状: 2015年の調査では、心理学論文100本のうち再現できたのは39本に留まった。ある調査では、科学者の70%以上が他者の実験の再現に失敗した経験があり、50%以上が自身の実験の再現に失敗していることが判明した。
  • 背景: 実験設定の欠陥や、研究者自身の解釈におけるバイアスが原因とされる。この危機は学問全体の信頼性を揺るがす問題に発展した。

■ 2. 再現性が疑われる有名な心理学研究

以下の研究は、その効果が過大評価されているか、限定的であることが追試で示された。

  • 自我消耗効果: 意思力には限りがあり、使用すると消耗するという仮説は、追試で効果が疑わしいと結論付けられた。
  • パワーポージング効果: 力強い姿勢をとると自信が増すという仮説は、追試で再現できないと報告された。
  • プライミング効果: 先行刺激が行動に影響を与える現象について、特定の論文で示された効果は信頼性が低いとされた。
  • ESP予知効果: 超能力の一種である予知能力に関する研究は、科学的に支持されない結論だと判断された。
  • 清潔さと道徳心の効果: 清潔さが道徳的判断を甘くするという仮説は、再現実験で証拠が得られなかった。
  • 飢餓とリスク: 欲望の対象を目の前にするとリスクを厭わなくなるとする仮説は、再現実験で主要な効果が観察されなかった。
  • 心理的距離と解釈レベル理論: 心理的に遠い出来事を抽象的に、近い出来事を具体的に考えるという仮説は、その妥当性に多くの疑問が呈されている。
  • 排卵と好みの影響: 妊娠しやすい時期に女性がイケメンを好むという仮説は、再現できないことが指摘され、支持する研究は少ない。
  • マシュマロテスト: 子どもの自制心が将来の成功を予測するという説は、子どもの社会的・経済的背景が主な要因であり、自制心の影響は限定的であるとされた。
  • 女性の数学成績: 「女性は男性に比べて数学の能力が劣る」という固定観念が成績に影響するという仮説は、追試で再現せず、普遍的な効果は認められなかった。
  • 笑顔を作ると気分が良くなる: 表情が感情に影響を与えるという仮説は、効果の強さに疑問が呈された。
  • モーツァルト効果: クラシック音楽が子どもの知能に良い影響を与えるという説は、再現が非常に困難であると判明した。
  • バイリンガルは賢い: バイリンガルが認知機能に普遍的なメリットをもたらすという説は、限定的で特定の条件に依存した効果のみが認められた。

■ 3. 課題と結論

  • 誇張された効果: 再現性が疑われた多くの研究は、効果が全くのゼロであることはほとんどない。しかし、元の論文で示されたほど強い効果ではなく、大きく誇張されている可能性が高い。
  • 追試の難しさ: 再現実験の質にばらつきがあり、元の実験に問題があったのか、あるいは実験条件が異なっているために再現できなかったのかを判断することは難しい。
  • 学術分野への影響: 一部の研究の再現性不足が、認知心理学分野全体の信頼性を損なっているという問題が指摘されている。