/note/science

引張強度30MPaのミドリムシ接着剤、熱で簡単分解 欧州廃車規制対策も

ミドリムシ由来の接着剤が、自動車業界の新たな選択肢になるかもしれない。

産業技術総合研究所(以下、産総研)は、ミドリムシが細胞内で蓄積する高分子「パラミロン」を使って0.05mm厚のシート状の接着剤を開発した。前処理として部材の接着面に微細な凹凸を付けてから使うと、最大30MPaの引張せん断試験に耐える。車体に求められる接着剤の要件は20MPa、航空機向けのエポキシ接着で30MPaと言われる。接着力としては申し分ない。

その真価は強力な接着性にとどまらない。最大の強みは、約200℃で軟化する熱可塑性だ。30MPaの引っ張りに耐える接着力を持ちながら、200℃に加熱すれば簡単に分解できる。この特性が、欧州連合(EU)の検討する「ELV(End-of-Life Vehicles)管理規則案(以下、欧州廃車規制)」の需要に合致した。

欧州廃車規制には、自動車の循環性を高めるために廃車からの取り外しを義務付ける部品リストがある。バッテリーやモーター、熱交換器など部品の約20項目で取り外しが容易であることを求めており、車体設計に大きく影響する。最短で2031年の新車から対応を迫られるため、欧州自動車業界では強力かつ分解可能な接着剤の需要が高い。

2024年12月、産総研はポルトガルで開催された国際学会にてミドリムシ由来の接着剤を発表。直後、欧州の大手化学メーカーから反響があった。発表者である産総研センシング技術研究部門製造センシング研究グループ長の寺崎正氏は、「国際学会より前に日本語でプレスリリースを発表したが、その情報すら日本法人を介して入手していた。世界中から常に探しているようだ」と、欧州自動車業界の情報感度に驚く。

従来の自動車向け接着剤は、エポキシやウレタン系を中心に接着力と耐久性を重視して開発されてきた。そのためリサイクルを見据えた分解性は、開発要件として主流ではなかったという。だが欧州廃車規制によって潮流が変わった。分解性に強みを持つミドリムシ由来の接着剤に、活躍の機会が生まれたのだ。

寺崎氏は「(欧州廃車規制では)自動車に対して85%のリサイクルを求めている。重量ベースの規制なので、プラスチックより金属が多くを占めるだろう。だからこそ金属部品の多い車体の接着需要はブルーオーシャンだ」と見る。車体だけでなくアセンブリー部品やEVバッテリーのカバー、内装部品の接着などにも活用を見込む。