■ 1. ウラン超伝導の基本特性
- 研究発表: 磁場を味方にするウラン超伝導の機構を東北大学などの研究チームが解明した
- 超伝導の定義: 特定の金属や化合物などの物質を極低温に冷却すると電気抵抗が0となる現象である
- ウランテルの発見: ウラン系超伝導体のウランテルは2019年に発見された比較的新しい超伝導物質である
- スピン三重項超伝導: 通常の超伝導では電子が2個ずつスピンを逆向きに打ち消し合うペアを組むが、ウラン超伝導においてはスピンを揃えるタイプの新しい超伝導が発生している
- 磁場との相性: 従来の超伝導は磁場との相性が良くなく強い磁場では超伝導状態が失われてしまうが、スピン三重項超伝導は磁場に強いとされている
■ 2. ウランテル化物の製造方法
- 研究体制: 今回の研究において日本原子力研究開発機構が協力している
- 溶融フラックス法: 2022年に日本原子力研究開発機構が発表した技術である
- 製造プロセス: ウランとテルと塩を黒鉛容器に入れて容器の内部を真空にし、加熱処理した後、生成物を取り出して塩を水に溶かすことによってウランテル化物の単結晶を得ることができる
- 結晶サイズ: 1cm程度の結晶を作ることができており、超伝導磁石として実用化するには少し小さいが実験をする場合には十分な大きさである
■ 3. 実験結果と磁場への適応
- 低磁場状態: 磁場が低い状態ではペアとなっている電子のスピンが横向きになっている
- 高磁場状態: 磁場が高い状態では磁場の方向とスピンの方向が揃うようになる
- 柔軟な状態変化: 磁場中においてウラン超伝導はその状態を柔軟に変えてより強い磁場に適応した新しい状態に自らを移行することが発見された
- 臨界磁場の記録: 従来の理論上の予測値は6テスラ程度が上限と見られていたが、今回の実験においては12テスラという理論上の予測値の2倍程度という記録を確認している
- 数値の比較: 大型の医療用MRI装置では3テスラ程度、国際熱核融合実験炉ITERでは13テスラ程度の超伝導磁石を使用しており、今回発表されているウラン超伝導の12テスラはかなり大きな値である
■ 4. 量子コンピューターへの応用可能性
- 期待される用途: 高磁場に耐える超伝導磁石用の材料開発、磁場制御の新たな超伝導量子デバイスといった利用用途に向けた開発が進展することが期待されている
- 量子ビットとしての利用: 現在開発が進められている量子コンピューターにおいては量子ビットとして超伝導子を使うという事例が主流となっている
- エラーの課題: 量子ビットは外部からの影響を受けやすいため通常のコンピューターと比べてエラーが発生しやすく、このノイズに弱いという点が実用化に向けた大きなハードルとなっている
- トポロジカル超伝導体: トポロジカル超伝導体であれば劇的にエラーを減らすことができるとされている
- スピン三重項超伝導の特性: スピン三重項超伝導の中にはトポロジカル超伝導体の性質を示すものがあり、表面部分にマヨラナ粒子と呼ばれる外部ノイズに対して頑健な量子状態が現れる
- マヨラナ粒子の研究: 東北大学においては今年の3月6日に幻のマヨラナ粒子を捉えたといったプレスリリースも発表している
■ 5. 実用面での考慮事項
- 規制の有無: ウランの化合物は300gまで許可を取る必要はなく、量子コンピューターといった利用用途であれば問題になることはなさそうである
- 転移温度: ウランテル化物の転移温度は2.1ケルビンであり、特に高温超伝導体というわけではなく液体ヘリウムによる冷却が必要となるタイプの超伝導物質である
- 研究への期待: 新しい超伝導物質ウラン超伝導の研究が進展することに期待される