■ 1. サイクリック宇宙論の最新研究
- 研究者: オランダの量子コンピューティング研究者フロリアン・ノイカート率いる研究チーム
- 発表時期: 2025年8月
- 主張内容: 宇宙はビッグバンで始まりビッグクランチで終わるサイクルを少なくとも3回から4回は繰り返している
- 現在の宇宙: おそらく5回目のサイクルである
- 残りのサイクル: 最大でも10回未満しかない
■ 2. ビッグクランチとビッグバウンス
- ビッグクランチ: 宇宙終焉の仮説の1つで、宇宙の加速膨張が終わって収縮に転じ、最終的には宇宙の全てが無次元の1点に収束する
- ビッグバウンス: 1点が再びビッグバンを起こして膨張し、大きく跳ね返ることで宇宙の新たなサイクルが始まる現象
- サイクリック宇宙論: 宇宙が始まりと終わりを周期的に繰り返しているという仮説で、循環宇宙論とも呼ばれる
■ 3. サイクリック宇宙論の歴史的背景
- フリードマンの貢献: 1922年にアインシュタイン方程式を宇宙に適用し、宇宙の様子を記述する方程式を導き出した
- ルメートルの膨張宇宙論: 1927年に宇宙が膨張し続けていることを数学的に導き出した
- ハッブルの発見: 1929年に遠方の銀河が遠ざかっていることを発見し、宇宙の膨張が観測的に明らかになった
- 振動宇宙論の誕生: フリードマン解の3タイプのうち、宇宙は膨張と収縮を永遠に繰り返すとする周期解を元にした
■ 4. 特異点問題と振動宇宙論の課題
- 特異点の問題: 宇宙が膨張し続けているということは時間を遡れば無限に小さい一点になり、従来の物理法則が通用しない
- トルマンの指摘: 1934年にエントロピー増大の問題を指摘した
- エントロピー増大の法則: 宇宙が膨張と収縮を繰り返すほどエントロピーは増え続け、サイクルの期間はどんどん長くサイズもどんどん大きくなる
- 振動宇宙論の暗礁: 時間を遡ると宇宙の始まりができてしまい、永遠に繰り返す宇宙は成り立たないと指摘された
■ 5. ビッグバン宇宙論の発展
- ガモフの貢献: 1948年に初期宇宙は超高密度の小さな火の玉だったとするビッグバン宇宙論を提唱
- 宇宙マイクロ波背景放射: 1964年にビッグバンの名残りの光が発見された
- 特異点定理: 1965年にペンローズとホーキングが宇宙の始まり初期特異点の存在を理論的に保証した
- インフレーション理論: 1981年に佐藤勝彦とアラン・ハーヴェイ・グースが特異点が膨らんでビッグバンになったとする理論を提唱
■ 6. 21世紀のサイクリック宇宙論復活
- ビッグバン宇宙論の限界: 宇宙の始まりの前には何があったのか説明できなかった
- エントロピー問題の回避: 21世紀に入るとエントロピー増大の問題を回避できるようになった
- 新モデルの考案: サイクリック宇宙論として様々な宇宙モデルが考案されるようになった
■ 7. 量子メモリ行列(QMM)の概念
- 新概念の導入: ノイカートの研究チームがエントロピー増大の問題を解決するために量子メモリ行列(QMM)という全く新しい概念を編み出した
- 時空の性質: 時空は連続的ではなく離散的な小さなセルの集合体であり、それぞれのセルは素粒子の挙動や相互作用といった量子的な情報を記憶できる
- 記録媒体としての時空: 時空そのものを目に見えない巨大な記録媒体と見なした
- 容量の限界: セルの容量に限界を設け、限界に達すると書き込まれた情報はそのままにビッグバウンスが始まる
- エントロピーの初期化: 前のサイクルのエントロピーは情報としてセルに痕跡が残るが、物理的には完全に初期化されるためエントロピーは増大しない
■ 8. ブラックホール情報パラドックスとの関連
- パラドックスの内容: ブラックホールに吸い込まれた情報はどこへ行くのかという問題
- ブラックホール無毛定理: ブラックホールの個性を決めるのは電荷、角運動量、質量の3つの物理量だけ
- ホーキング放射: ブラックホールは熱放射によって蒸発し、その時飲み込んだ物質の情報も消失してしまう
- QMMによる解決: 周囲の時空セルが物質を記録するため、ブラックホールが蒸発しても時空セルには情報が残る
■ 9. サイクル回数の推定
- 情報量の調査: 宇宙マイクロ波背景放射の精密観測や宇宙年代測定、銀河の大規模構造などの観測データから現在の情報量を推定
- 計算結果: フリードマン方程式に記録の効果を加えて計算したところ、過去に3.6回前後、およそ4回のサイクルを完了している必要がある
- 蓄積年齢: 情報として蓄積されている宇宙の年齢はおよそ620億年と見積もられた(現在の標準宇宙モデルでは約138億年なので4.5倍)
- 残りのサイクル: 情報の書き込み限界まであとおよそ9.7回、10回未満のサイクルしか繰り返せない
- 最終的な終わり: サイクルを使い切った後、宇宙はビッグバウンスを起こすことなく膨張し続けながら静かに終わっていく
■ 10. 原始ブラックホールとダークマター
- 情報揺らぎの持ち越し: 全サイクルまでに蓄積された歪みや揺らぎなどの宇宙の痕跡は情報の揺らぎとして持ち越される
- 揺らぎから村へ: この情報揺らぎは新しい宇宙で揺らぎとして振る舞う
- 重力崩壊: 揺らぎの程度は重力によってどんどん激しくなり、最終的には重力崩壊を起こしてブラックホールの形成につながる
- 原始ブラックホール: ビッグバン後わずか1秒未満に極端に高密度になった領域で重力崩壊が発生し生まれたブラックホール
- ダークマターの候補: 原始ブラックホールは重力でのみ存在を知ることができる謎の物質ダークマターの候補の1つ
■ 11. エキピロティック宇宙論
- 提唱者: 2001年にポール・ジョセフ・スタインハートとニール・ジェフリー・トゥロックが提唱
- ブレーン宇宙論の応用: 3次元の宇宙はさらに高次元空間に埋め込まれた膜(ブレーン)のようなものではないかと考える
- ブレーンの衝突: 高次元空間にはブレーンが多数存在し、隣り合うブレーン同士が衝突するとその巨大なエネルギーによって火の玉のような状態になる
- 周期的な衝突: ブレーンの衝突は周期的で膨張と収縮が無限に繰り返される
- 古代ギリシャ哲学との関連: 名前の由来は古代ギリシャ哲学のストア派の思想エクピュロシス(世界年)
■ 12. 循環思想の文化的背景
- 宗教と哲学: 宇宙が繰り返されるという考え方は輪廻転生の思想にも通じ、宗教や哲学でよく取り上げられている
- 古代インド: 1つの宇宙が誕生し消滅するまでの期間をカルパという単位で表し、周期的に創造と破壊を繰り返すとした
- アステカ文明: 世界は4度滅んでおり現在は5番目の太陽の時代だとしている(ノイカートの論文と一致)
- アステカの予言: 今回が最後の時代であり6番目はなく、5番目の時代は地震によって滅亡し人間は空の怪物に食われる
- ニーチェの永劫回帰: 同じ出来事を同じ順番で無限に繰り返されても全然構わないと思えるような素晴らしい人生を送るべきだという思想