■ 1. マタン・シェローミ氏の経歴と活動
- 出身と学歴: アメリカ出身でハーバード大学で学士号を取得、カリフォルニア大学デービス校で昆虫学の博士号を取得
- 現職: 2017年から国立台湾大学で昆虫学の准教授
- 偽論文の目的: ハゲタカ・ジャーナルをからかうための楽しい抗議手法の一つ
- ポケモン論文: 2020年発表の『Cyllage City COVID-19 Outbreak Linked to Zubat Consumption(ショウヨウシティでのCOVID-19のアウトブレイクとズバットの食用消費の関係性)』が世界的に話題となった
■ 2. ハゲタカ・ジャーナルの問題
- 定義: お粗末な論文を掲載してお金を稼ぐ悪徳学術誌の総称
- 仕組み: 論文の著者から高額の論文掲載料を請求することのみを目的として発行される
- 危険性: 学者や論文の信用を著しく損なわせる危険をはらむ
- 査読の不在: お金さえ払えば提出された論文をすべて受理してしまい、誰も論文の内容をチェックしていない
- アカデミックでの位置づけ: 学術の場で大きな問題となっている
■ 3. ズバット論文の発想と経緯
- アイデアの源: パンデミック初期のコウモリスープとCOVID-19に関する大騒ぎを見て、すぐにポケモンに置き換えた偽論文のアイデアを思いついた
- 注目の予測: 注目されるだろうという直感があったため、The Scientist誌に記事を書き何をしたか、なぜそうしたのかを解説した
- 成功の要因: ポケモンへの愛とCOVIDへの世界的関心が相まって大きな注目を集めた
- 目的達成: この偽論文によって少しでもハゲタカ・ジャーナルへの認知を高められたことを願っている
■ 4. American Journal of Biomedical Science & Researchの実態
- 掲載の驚き: 受理されたことには全く驚かなかった、サイトがハゲタカ・ジャーナルであることは分かっていたため
- 勧誘の執拗さ: 本当に執拗に勧誘メールを送りつけてくる(本物の学術誌は絶対にしない)
- サイトの特徴: 不可能なはずの迅速な査読と出版を謳いながら、リンク切れやデザイン上の欠陥も多い
- 著者の傾向: 論文の著者のほとんどは南アジア出身で、南アジアは論文を出さなければならないという強い社会的圧力がある一方でハゲタカ・ジャーナルへの認識が非常に低い
- リストへの掲載: ビールのリストに掲載されていて、現在はKscienのリストにも掲載されている
■ 5. ハゲタカ・ジャーナルの見分け方
- メールアドレスの使い分け: メールアドレスやドメインをいくつも使い分けている
- 料金体系の変更: 料金体系を頻繁に変えたりする
- 権威の欠如: この雑誌に論文を出すことはトイレットペーパーで尻を拭くのと同じくらいの権威しかない
- 掲載基準の不在: 医学的である必要も、真実である必要も、現実に基づいている必要すらない
■ 6. ポケモンを論文に持ち込んだ理由
- シンプルな動機: ポケモンが好きで、ポケモンが人気だと知っていたから
- リーチの拡大: ポケモンを題材に使うことでより広い読者層にリーチできると考えた
- 過去の試み: ソーカル事件や不満研究事件など論文精査システムに対する告発のために偽論文を書く試みは過去にもあった
- 革新性: ゲーム・カルチャーを持ち込んだことが革新的
■ 7. プロジェクトへの反応
- ポケモンファンの反応: ポケモンファンたちは大喜びだった
- 批判的な意見: ハゲタカ・ジャーナルなど存在しないし問題でもないと考え、おとり調査そのものが非倫理的だと言う人もいる
- 科学者の反応: 圧倒的多数の科学者はおとり調査に肯定的に反応している
- 好例: ボハノンによる大規模なハゲタカ・ジャーナル調査などがその好例
■ 8. ポケモンとの関係
- ファン歴: ポケモンは最初のアニメ放送の時から大好き
- ゲーム経験: 最初に遊んだのはNINTENDO 64のポケモンスタジアムで、メインシリーズはプレイしたことがない
- ポケモンGO: リリース以来ずっと熱心に遊んでおり、台湾でも人気でコミュニティデイには大勢が集まる
- 最初の論文: ユーモア系科学誌『Annals of Improbable Research』に掲載された半分冗談のような論文で、オーキド博士を共著に入れてポケモンの進化系統樹を作成した
- 将来の夢: 最終的にはポケモン学の名誉博士号を実際の大学から授与されてオーキド博士みたいにポケモン博士と名乗るのが夢
■ 9. おとり調査の正当性
- 詐欺師を騙すこと: 詐欺師を騙すことは騙しになるのかという問い
- 金銭目的: 彼らは金さえ手に入るんだったら何も気にしない
- 犯罪的組織: 主に発展途上国の弱い立場にある研究者を欺き搾取する犯罪的な組織
- 認知の向上: おとり調査で彼らを刺すことは誰も傷つけず、問題への認知を高める
- 学習効果: 読者が一度でもおとりを見抜けば、見た目がどれほどそれらしくても論文を盲目的に信じることはなくなる
■ 10. 論文内の警告
- 明示的な記述: 論文には文字どおりそれが偽物だと書いてある
- 具体的な警告: この論文を掲載する雑誌は査読を実施していないはずであり、ゆえにハゲタカ・ジャーナルと言えるだろうと文中で明言
- 巨大なフラッグ: いくつも混ぜ込んでおいた数々の巨大なフラッグに査読者が気付かないはずがない
- 自動化の証明: この論文が掲載されているということは、それらの雑誌に掲載されている論文は誰一人として読んでないということ
- 騙す相手の不在: すべてが自動化されボットによって動かされており、騙す相手がそもそもいない
■ 11. アカデミックが抱える深刻な問題
- 科学への信頼: 科学は真実の源であり、その真実は査読制度によって誠実さが保たれた学術論文という形で届けられると考えがちだが、現実はそうではない
- 査読付きジャーナルの問題: 査読付きのジャーナルでさえ、ときに警戒をゆるめることがある
- Proteomicsの事例: ミトコンドリアには魂があると主張する論文を掲載したことがある
- 撤回のルール: 撤回については明確なルールが決められているはずなのに、しばしば言い訳を並べる
- まっとうなジャーナルでさえ: これはまっとうなジャーナルの場合でさえ起きる問題
■ 12. The Lancetとウェイクフィールド論文
- 最大の例: 1998年にThe Lancetに掲載された、ワクチンが自閉症を引き起こすと主張したアンドリュー・ウェイクフィールドらの論文
- 不正の内容: 申告していない金銭的利益相反を抱え、データを捏造し、子どもに対して非倫理的で残酷な実験を行っていた
- 編集部の問題: 編集部は当初から研究が偽物らしいと疑っており、査読者もデタラメだと指摘していたが、話題性と金になると分かっていて掲載した
- 深刻な影響: 現在まで人命を奪い続けているある種の反ワクチン運動の火付け役になった
- 撤回の遅れ: 科学界がほぼ即座に不正と認めたにもかかわらず、完全撤回までに12年を要した
■ 13. 論文を読む際の姿勢
- 無条件の信頼の禁止: 誰も信頼してはいけない、少なくとも無条件では
- 批判的な読解: 全ての論文は批判的に読む必要がある
- 利益相反の確認: 常に著者に利益相反がないかを考える
- 比較検討: 同じテーマの他の研究と結果を比較する
- ハゲタカ・ジャーナルの確認: それがハゲタカ・ジャーナルではないことを必ず確かめる
■ 14. 各国の対応状況
- 認識の広がり: 多くの国がこの問題を認識しはじめており、ようやくハゲタカ・ジャーナルでの発表を研究業績として数えないようになってきた
- 台湾の対応: 国立台湾大学でもそれをテニュア(終身在職権)の審査に考慮せず、政府も助成金申請には認めない
- 発展途上国の問題: インド、中国、バングラデシュ、パキスタンなどの発展途上国ではまだ問題意識が薄い
- 質より量の弊害: その土地の学術の場で質より量が重視されているのなら、ハゲタカ・ジャーナルは存続し研究者はだまされ続ける
- 自動掲載の実態: 多くのハゲタカ・ジャーナルは半自動的に運用されているので、実は掲載料を払わなくても自動的に論文を掲載してしまう
■ 15. 引用事例の問題
- 引用論文: The COVID-19 Outbreak's Multiple Effectsという論文で、感染症について書くべき立場にない退職したチュニジア人の物理学者が執筆
- 掲載誌の問題: International Journal of Engineering Research & Technologyという感染症の論文を載せるべきでないハゲタカ・ジャーナルに発表
- 内容の問題: コロナはチュニジアのハーブで治るなどと主張していた
- 架空の参考文献: ズバット論文を引用しただけでなく、その中に出てくる架空の参考文献まで引用していた
- 著者の弁解: パンデミック中は他にやることがなく、この論文の掲載にかかった費用はたった3ドルだったので悪いことではないと思ったと回答
■ 16. プロジェクトの影響と評価
- 評価の困難さ: はっきり言うのは難しい、ハゲタカ・ジャーナルを立ち上げるのも偽論文を載せるのも簡単だが、正規の学術誌に正規の論文を発表するのは非常に難しく膨大な時間もかかる
- 引用状況: ズバット論文は複数の言語でいくつかの論文に引用されており、おそらくハゲタカ・ジャーナルに関する文脈で正しく引用されている
- 認知の重要性: 認知を高めることは重要
- 需要の問題: 需要がなくならない限りはハゲタカ・ジャーナルが消えることもない
- 中国の事例: データ捏造などの研究不正による劣悪な研究が、ハゲタカ・ジャーナルや正規の出版社を問わず発表されてしまうという広範な問題が起き続けている
■ 17. 中国における構造的問題
- 政府の圧力: 政府が学術関係者全員に、医師のような研究職でない人も含めて毎年複数の論文を発表させるという圧力をかけている
- 非現実的な要求: そもそもの要求が非現実的なので、データの捏造やAI生成の論文、そしてハゲタカ・ジャーナルへの投稿が横行している
- 解決策: その不合理な要求を取り除き、研究者が量より質に集中できるようにすれば、近道に頼ったり不正に手を染める圧力は消えるはず
■ 18. 今後の活動と研究者へのメッセージ
- 現状: 現在は本業の研究論文を発表するのに忙しく、偽論文に時間を割く余裕はない
- 将来: いつかまた戻ってくることになるだろうと確信している
- 研究者へのメッセージ: 質の悪い論文を見かけたら恐れず声を上げてほしい、誤りのある論文を読んだらためらわずに雑誌や著者にメールして間違いを指摘してほしい
- 出版後査読: この種の出版後査読はシステムの運用に不可欠なものだが実践されることがあまりにも少ない
- 行動の促進: 何かを見たなら何かを言いましょう
■ 19. ゲーマーへのメッセージ
- 革新の継続: 革新を止めないでほしい
- アカデミアとの結びつき: ビデオゲームへの情熱をアカデミアと結びつける方法は必ずある
- 楽しさの保証: なにより、すごく楽しいもの
■ 20. 偽論文執筆の心得
- 査読の赤旗: これは偽物である、この雑誌はハゲタカであると文字どおり書くなど、合理的な編集者や査読者が気づくような明白な記述を入れる
- 公開の場での種明かし: 事後に解説記事を書くなどして注目を集める
- 金銭的負担の回避: 金を払わないこと、心配は無用で彼らは犯罪者だから脅しをかけられても訴訟にはならない
- 偽名の使用: 提出の際は偽名や架空の連絡先を使い、嫌がらせを避けると同時に業績リストが偽論文で汚染されないように注意する