■ 1. 歴史的成果の概要
- 日本のスタートアップHelical Fusionが2025年10月27日、商用核融合炉に不可欠な高温超伝導(HTS)コイルの性能試験に世界で初めて成功した
- この成功は日本独自のヘリカル方式が国際開発競争の先頭に躍り出る可能性を示す歴史的転換点である
- 核融合炉内部の極限環境を再現した条件下で、大型HTSコイルが安定して性能を発揮したことが画期的である
■ 2. 技術的成果の具体的数値
- 達成条件:
- 40kA(キロアンペア)の電流: 商用炉で必要な大電流の安定供給に成功
- 7テスラの強力な磁場: 超高温プラズマ閉じ込めに必要な磁場環境下での達成
- 15K(摂氏マイナス258.15度)での安定稼働: 極低温状態で電気抵抗ゼロの超伝導現象を安定維持
- 試験は岐阜県の核融合科学研究所(NIFS)の施設を利用して実施された
- HTSコイルは従来の超伝導材料より比較的高い温度で動作し、冷却コスト削減とコンパクトで強力な磁石製造を可能にする
■ 3. 高温超伝導技術の意義
- この試験成功はHTS技術を実験室レベルから商業炉レベルへスケールアップさせる能力の証明である
- 次段階の実証装置「Helix HARUKA」建設に進むための最後の技術的ハードルをクリアした
- HTS技術は商用炉実現に必須の技術とされている
■ 4. ヘリカル方式の優位性
- 採用方式:
- 世界の約50の核融合プロジェクトの多くはトカマク方式を採用
- Helical Fusionは日本が60年以上研究をリードしてきたヘリカル・ステラレーター方式を採用
- トカマク方式との違い:
- トカマク方式: ドーナツ型容器内のプラズマ自体に巨大電流を流して磁場の一部を生成するため、連続的な長時間運転(定常運転)に技術的課題が残る
- ヘリカル方式: 複雑にねじれた形状のコイルそのものがプラズマ閉じ込め用の磁場を全て作り出すため、プラズマに電流を流す必要がなく、原理的に24時間365日の連続運転が可能
- 連続運転能力が発電所として商業的に成立するための絶対条件であり、ヘリカル方式最大の強みである
■ 5. 商用炉の三要件
- 商用核融合炉に必須の三要件:
- 定常運転: 24時間365日安定稼働できること
- 正味発電: 炉の運転に投入するエネルギーより生み出すエネルギーの方が多いこと
- 保守性: 炉の部品を短期間で効率的にメンテナンスできること
- Helical Fusionは現在開発中の複数方式の中で、既存技術でこれら三要件を同時に満たせるのは唯一ヘリカル方式のみと主張している
- 今回のHTSコイル成功はこの主張の実現性に力強い裏付けを与えた
■ 6. Helix Programのロードマップ
- 次段階「Helix HARUKA」(統合実証装置):
- 成功したHTS磁石技術とエネルギー取り出し用のブランケット/ダイバータシステムを統合
- 安定した連続的な核融合反応が可能であることを実証
- 2020年代後半までに検証完了予定
- 最終目標「Helix KANATA」(パイロットプラント):
- 2030年代に核融合エネルギーによる実用発電達成を目指す
- 商用炉三要件(定常運転、正味発電、保守性)を全て満たす
- 核融合が持続可能で高効率なエネルギー源であることを世界に証明する計画
■ 7. 国際競争環境と資金格差
- 市場予測: 核融合エネルギー市場は2050年までに世界で数百兆円規模に成長すると予測されている
- 投資額の比較:
- 米国: MIT発のCommonwealth Fusion Systemsなどが過去数年で1兆円超(約66億ドル)を投資
- 中国: 国家主導で1兆円超を投資
- 日本: 約1000億円にとどまる
- Helical FusionのCEO田口昂哉氏は資金格差に危機感を示しつつ、新政権による資金調達と政策支援の強化に期待を表明している
■ 8. 日本政府の支援
- 文部科学省のSBIR(スモールビジネス・イノベーション・リサーチ)Phase 3プログラムを通じて20億円(約1300万ドル)の資金提供を受けている
- 資金力では劣るものの、60年以上の研究で培われた技術蓄積を武器に、日本がレースをリードできる可能性は十分にある
■ 9. 世界初の核融合倫理研究
- 取り組みの開始: 2025年10月23日、福岡大学と共同で世界初となる「核融合倫理」構築に関する研究を開始
- 研究の意義:
- 社会を根底から変える革新技術には必ず倫理的議論が伴う
- 核融合エネルギーは資源の制約から人類を解放し、エネルギーのあり方を不可逆的に変える可能性を持つ
- 技術開発だけでなく、社会・人類・地球に及ぼす影響について責任を持つ必要がある
- 研究内容: エネルギーが無限に近くなった社会で人類の価値観や生き方がどう変わるか、どのような倫理的課題が浮上するかを探求する前例のない試み
- 先見性: 技術の社会実装が本格化する前に光と影を見据え、人類社会が備えるべき土台を築こうとしている
■ 10. 今後の展望
- 今回のHTS技術の成功は長年の日本の地道な基礎研究が世界最先端のスタートアップの力で開花した瞬間である
- 実用化への道のりは長く、技術的・資金的・倫理的課題が山積している
- 連続運転という明確な優位性を持つヘリカル方式を武器に、日本が世界をリードする可能性がある
- 田口CEOは今回の成功を「世界的な転換点」と表現している
- 地上に「第二の太陽」を創るという壮大な挑戦が、エネルギー問題に苦しむ人類の希望の灯となる可能性がある