■ 1. P波磁性体の開発成功
- 東京大学と理化学研究所が新型磁性体であるP波磁性体の作製に成功したと発表した
- 1980年代から理論的に予言されていた磁性体を金属において実証したのは今回が初である
- 物理学の歴史に刻まれる成果となっている
■ 2. 磁性体の分類と特徴
- 強磁性体(S波磁性体):
- 一般的に使用されている磁石である
- 電子スピンの向きが同じ方向に揃っている
- 反強磁性体(D波磁性体):
- 従来知られていた反強磁性体である
- 電子スピンの向きが交互に反対向きとなっている
- 全体として磁気が打ち消されるため異常ホール効果は現れにくい
- P波磁性体:
- 反強磁性体の一種であるがD波磁性体ではない
- 電子スピンの向きが上下左右とくるくると循環する規則性を持つ
- 磁気周期は6(スピンが一周するために必要な原子層の数)である
■ 3. 命名と分類の根拠
- S波、P波、D波は地震の波とは無関係である
- スピン分裂の種類を示しており、電子スピンの向きによって生じるエネルギーの違いをスピン分裂と呼ぶ
- スピン分裂はその対称性によってS波、P波、D波などに分類される
■ 4. 製造方法と使用材料
- 使用材料:
- ガドリニウム、ルテニウム、ロジウム、アルミニウムを使用している
- アルミニウム以外は非常に高価な金属であり、特にロジウムは純金よりも高価である
- デバイス自体は数ミリメートル程度と非常に小さいため大量消費はしていない
- 製造技術:
- ルテニウムの一部をロジウムで置換することでスピン構造の整合性を調整している
- 浮遊帯域溶融法という装置を使用し、接触容器を使用しないため純度が高く構造欠陥が少ない結晶を育成できる
- 作成された結晶を収束イオンビーム技術で迷路のような形状に加工している
■ 5. P波磁性体の特異な性質
- 巨大な異常ホール効果:
- 磁性体に電流を流した時、外部磁場がなくても電流の垂直方向に電圧が生じる現象である
- 従来の反強磁性体D波磁性体では異常ホール効果は非常に小さいか観測されていなかった
- P波磁性体では反強磁性体であるにも関わらず巨大な異常ホール効果が観測された
- スピン軌道相互作用と微小な自発磁化によるものである
- 電気抵抗の異方性:
- スピンの向きに対して平行方向に電流を流した場合と垂直方向の場合で電気抵抗の大きさに違いがある
- 電流を流す角度と抵抗値の間に明らかな関係性が存在する
- キラルパリティ:
- パリティは空間反転対称性のことであり、空間の座標を反転すると符号が変わる性質をキラルパリティと呼ぶ
- P波磁性体のスピン分裂はキラルパリティとなる
- キラルパリティ状態は保護された量子状態を維持しやすいとされている
■ 6. 応用可能性
- スピントロニクスメモリ:
- 異常ホール効果はスピン状態を電気的に読み出す手段として利用できる
- コンピューターの記憶素子メモリを作るための技術として応用できる可能性がある
- センサー技術:
- 電気抵抗の異方性を何らかのセンサーに応用できる可能性がある
- 量子コンピューター技術:
- 保護された量子ビットを実現できれば量子コンピューター技術に発展させることができる
- P波磁性体と超伝導体を接合して利用する提案もされている
- マヨラナ粒子などの新しい量子状態の探索にも利用できる可能性がある
- マヨラナ粒子は自己反転粒子であり、この性質を利用すると量子計算時に発生する誤りを訂正しやすくなる