■ 1. ミュオンの基本特性
- ミュオンは素粒子の1つである
- 電子の約200倍の質量と電子と同じ大きさの電荷を持つ
- 正ミュオンと負ミュオンが存在する
■ 2. ミュオンによる放射性廃棄物無害化の原理
- 研究状況:
- 東京科学大学の奈良林特定教授がミュオンによる放射性廃棄物無害化について情報を発信している
- 京都大学などにおいて研究事例が発表されている
- 原理的にはすでに実証されている技術である
- メカニズム:
- ミュオンが物質中に入ると原子に含まれる電子と入れ替わってミュオン原子を形成する
- ミュオンは電子より重いため軌道半径が約1/200程度に縮小される
- ミュオンの軌道は原子核の大きさ程度になり、原子核内部に侵入する
- 原子核内部に入ったミュオンは原子核中の陽子に吸収される
- その結果、陽子は中性子とニュートリノに変換される
- 原子核中の陽子数によって元素の種類が決まるため、陽子が1つ減るとセシウムはキセノンになるなど人工的な元素変換を実現できる
■ 3. ミュオン生成の課題
- 加速器による生成:
- ミュオンの作り方自体は確立されている
- 大型加速器を使う必要があり膨大な電力を消費するため、あまり現実的ではない
- 天然の宇宙線ミュオン:
- 大気上層において宇宙線が原子核と衝突することにより常にミュオンが生成され地表に降り注いでいる
- 日本にはスーパーカミオカンデという宇宙線ミュオン観測施設がある
- 宇宙線ミュオンは10平方cmあたり毎秒1個程度しか降ってこない
- 1個のミュオンはうまくいっても1個の原子しか処理できないため、放射性物質処理には全く足りない
■ 4. 奈良林特定教授の主張する装置
- ドラム缶のような装置で宇宙線ミュオンを増殖させて放射性物質を処理できるミュオン反応炉を開発したと主張している
- この装置は高温に加熱することによってミュオンが増殖するという理論を元に開発されている
- 前回、加熱によりミュオンが増えるという論文があると説明していたが、そのような論文は発見されていなかった
■ 5. 提示された論文の問題点
- 論文の内容:
- 今回は論文タイトルが発表されている
- この論文は正ミュオンと電子が結合してできるミュオニウムの生成と放出について発表している
- 核変換技術や放射性物質の無害化に使用するのは負ミュオンであり、最初の1行目から関係がなさそうである
- 奈良林特定教授の解説:
- レーザービームをターゲットに照射しているのは加熱したということになり、そうするとミュオンが増え出したと解説している
- 論文を読んでもそのような記述は見当たらない
- 研究はレーザーによりシリカエアロゲルの表面に微細な加工をすることでミュオニウムの放出力を改善できると発表しているが、ミュオニウム自体が増えるわけではない
- 中性粒子であるミュオニウムが増えても核変換には使えない
- 奈良林特定教授がなぜこの論文を提示しているのか不明である
■ 6. トリウム処理実験の疑問点
- 発表内容:
- ミュオン反応炉によってトリウムを処理した場合の放射線変化グラフが発表されている(背景放射、処理前、処理後30分後、処理後9日後)
- 処理済みの放射性物質を手に持って放射能はなく安全であると身を持ってアピールしている
- 矛盾点:
- 旅客機に放射性物質を持ち込むことは禁じられている
- 実験を実施したアメリカから日本国内に持ち込めている時点で、少なくとも放射性物質ではないことがわかる
- トリウム232の特性:
- 半減期が約141億年ある
- 半減期が長いということは出てくる放射線が弱いことを示している
- 元々少量短時間であれば手に持っても問題ない
- トリウムが崩壊すると最終的には鉛の安定同位体となり、航空機内に持ち込むことができる
■ 7. エネルギー処理の問題
- 崩壊時のエネルギー:
- 100gのトリウムの場合、約1.77テラジュール(約420トンの爆薬に相当)のエネルギーが発生する
- 何百億年もかけて放出するのであれば問題ないが、ミュオン反応による処理時間はわずか10分間である
- 奈良林特定教授が提示している試料のサイズから100g程度あると予想される
- 発生する膨大なエネルギーを装置の表面が蓄熱する程度で対処できているのは不自然である
■ 8. 今後の計画
- 現時点ではトリウムとアメリシウムについてはミュオンにより無害化できることを確認できているとされている
- 今後はセシウムとストロンチウムについてミュオンを利用できるかどうか試みると発表されている
■ 9. 総合評価
- ミュオンを利用した核変換技術の続報が発表されている
- 宇宙線由来のミュオンを増殖させて核変換に必要な量を確保できると説明されている
- この技術の根幹をなす「加熱することによってミュオンが増殖する」というメカニズムについて明確な説明がされていない点が懸念される