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【残酷な科学の現実】なぜ人類が月移住するのは99%無理なのか? 進まないアルテミス計画...

要約:

■ 1. 月移住が困難な理由の概要

  • 月移住は技術的には不可能ではないが、現実的にはほぼ実現できない(99%無理)
  • 月移住がほぼ不可能な理由は大きく5つ存在し、最後の理由が最も致命的である

■ 2. 温度環境の問題

  • 月の昼夜の温度差:
    • 昼間は約120℃、夜は約-170℃で、温度差は約290℃に達する
    • 昼は水が自然に沸騰するレベルの高温、夜は液体窒素並の極寒である
  • 原因: 月には大気がないため、太陽光が当たればすぐに灼熱、影になればすぐに極寒になる
  • 時間的問題:
    • 月の1日は地球時間で約29.5日であり、昼が約2週間続いて夜も約2週間続く
    • 2週間ずっと120℃の灼熱に耐え、次の2週間は-170℃の極寒に耐える必要がある
    • 空調システムが1時間でも止まれば人間は即死する
  • 電力確保の困難:
    • 夜の2週間は太陽光発電ができない
    • NASAが目をつけているのは月の極地で、クレーターの縁などほぼ常に太陽光が当たる場所や永久影と呼ばれる常に影になっている場所を組み合わせて使うしかない
    • 住める場所が極めて限られる

■ 3. 放射線の問題

  • 地球との違い: 地球は分厚い大気と磁場のバリアで宇宙からの放射線を防いでいるが、月には大気も磁場も存在しないため、宇宙線や太陽風が直撃する
  • 放射線量:
    • 2020年にドイツと中国の研究チームが月面データを分析した結果、月面の放射線量は1時間あたり約60マイクロシーベルトだった
    • 地球の約200倍であり、1年間月面にいると約500ミリシーベルト以上浴びることになる
    • これは日本の原発作業員の年間被曝限度の10倍以上である
  • 太陽粒子イベント:
    • 太陽の表面で起こる大規模な爆発現象である
    • 1972年8月のイベントはアポロ16号と17号の間のタイミングで起き、適切な遮蔽がなければ数シーベルトに達し、重篤な被曝の恐れがあった
  • 唯一の防御方法:
    • 地下に住むことが唯一の方法である
    • 月の砂(レゴリス)で数メートル覆えばある程度は防げる
    • 窓から景色を眺めることも外を散歩することもできず、刑務所より厳しい生活環境となる

■ 4. 重力の問題

  • 月の重力は地球の1/6であり、これが長期的には人体に深刻なダメージを与える
  • 筋肉と骨の衰え:
    • 人間の体は地球の重力を前提に進化してきたため、重力が1/6になると体が急速に衰える
    • 国際宇宙ステーションの実験では無重力環境で1ヶ月過ごすと筋肉が10〜20%減少し、骨密度も月に1〜2%減っていく
    • 長期間宇宙にいた宇宙飛行士は地球に帰還しても自力で立てなくなることがあり、リハビリに数ヶ月かかることも珍しくない
  • 全身への悪影響: 重力不足は血液循環、免疫システム、内臓機能にも悪影響を与える
  • 次世代の問題:
    • 胎児の発達には重力が必要不可欠だと考えられている
    • 月の低重力環境で正常に発育できるかまだ誰も分かっていない
    • 月では人類が繁殖できない可能性が高く、長期的には絶滅コースになりかねない

■ 5. 資源とコストの問題

  • 輸送コスト:
    • 現状、月面まで1kg運ぶのに数千万円から数億円かかる
    • 仮に1kgあたり3000万円とすると、人間1人が1日生きるのに必要な水と食料約3kgで1日約9000万円かかる
    • 実際には寝具や予備機器、酸素なども含めれば実コストはさらに増え、1人を1年間月で生活させるコストは軽く数百億円を超える
  • 月の水資源:
    • 月の水は極地のクレーター内部の氷として存在している
    • それを掘り出して溶かして浄化する設備を作るだけで莫大なコストがかかる
  • ヘリウム3の問題:
    • 核融合炉の燃料として注目されているが、核融合炉がまだ実用化されていない
    • ヘリウム3を1トン得るには約1億トンの月の砂を処理しなければならない
  • 現在の研究状況:
    • NASAや各国の宇宙機関は月のレゴリスから酸素を抽出したり、3Dプリンターで月の砂から住居を作る研究を進めているが、どれもまだ実験段階で実用化には何十年もかかる
    • 当分は全部地球頼みとなる

■ 6. 心理的問題

  • 生活環境のストレス:
    • 放射線を防ぐため地下で暮らし、外に出る時は重い宇宙服を着なければならない
    • 窓の外は真空で音も風もない静寂である
  • ISSでの事例:
    • 国際宇宙ステーションの宇宙飛行士でさえ、長期滞在では睡眠障害、情緒不安定、集中力低下が報告されている
    • ISSは地球が常に見えて数ヶ月で帰れるが、月からは地球が見えても距離が遠くすぐには帰れない
  • 閉鎖環境の影響:
    • 南極基地や潜水艦など閉鎖環境での研究では、些細なことでメンバー間の対立が起こりやすいことが分かっている
    • 月面基地という極限環境ではそれがさらに深刻になる
    • 常に死と隣り合わせのストレスに耐え続けるのは並大抵の精神力では無理である

■ 7. 距離の問題(最も致命的)

  • 月までの距離:
    • 月までの平均距離は約38万4400kmで、飛行機で行くと仮定すると約17日かかる距離である
    • 光の速さでも片道1.3秒かかる
  • ISSとの比較:
    • ISSは高度約400kmで、緊急事態が起きても数時間で宇宙飛行士を地球に帰還させられる
    • 月から地球までは最速でも3日かかり、状況次第では1週間以上かかることもある
  • 緊急事態への対応不可:
    • 急病人が出た場合、月では最低3日間医療設備のない環境で耐えるしかない
    • 酸素供給装置の故障、生命維持システムのトラブルなど、どんな問題が起きても地球からの救援は最低3日後となる
    • 全ての部品を用意するのは不可能であり、修理に必要な技術者がいるとは限らない
  • 解決策の困難:
    • 理論上は地球と月の間に中継ステーションを作ったり、月面基地を完全に自立できるシステムにする必要がある
    • しかしそれには天文学的なコストがかかり、複数の国が協力しても数十年かかるレベルである
    • 技術的問題は克服できても物理的距離だけはどうにもならない

■ 8. 月探査の価値

  • 住むのは無理でも使う価値は十分にある
  • 科学研究拠点: 月には大気がないため地上では不可能な天体観測ができ、電波望遠鏡を月の裏側に設置すれば地球のノイズに邪魔されない観測が可能になる
  • 資源採掘の実験場: 今すぐ実用化できなくても将来の技術開発のために月で試すことには意味があり、核融合が実用化されればヘリウム3は貴重なエネルギー源になる
  • 火星探査の中継基地: 月での経験が役立ち、月で生命維持技術や建設技術を確立できればそれを火星にも応用できる

■ 9. 将来への展望

  • 技術は日進月歩で進化しており、100年後には月移住も当たり前になっているかもしれない
  • 今は99%無理でも、100年後には実現可能になっている可能性がある
  • 大事なのは人類が前を向いて挑戦し続けることである
  • ロマンがなければ科学も進化しないため、夢を追うことは素晴らしいが、現実を知った上で挑戦することが本当の科学精神である