■ 1. NAS電池の概要と終了発表
- 2025年10月31日に日本ガイシがNAS電池の製造販売終了を発表
- 正極材料にナトリウム、負極材料に硫黄、電解質にセラミックスを使用
- 原理は1967年にアメリカのフォードが発表
- 製品化を実現したのは世界で日本ガイシのみ
- 2002年から販売を開始したが普及は限定的
■ 2. 安全性の課題
- 大規模な火災事故が発生し信頼性に疑問符
- 初期製品は安全性に課題があり各地で火災が発生
- 材料特性により一度火がつくと2週間燃え続ける
- リチウムイオン電池の火災よりも消火が困難
■ 3. 電池の仕様と危険物管理
- セル寸法: 直径90.5mm、高さ513mm
- 国際規格はなく日本ガイシの独自規格
- 1セルあたりナトリウム780g、硫黄1560g含有
- 電池モジュールは400本のセルで構成され蓄電容量50kWh
- 1200kWhの蓄電コンテナには24個のモジュールが搭載
- コンテナ全体でナトリウム7488kg、硫黄14976kg含有
- 硫黄は第2類、ナトリウムは第3類の危険物に指定
- 平成11年の消防庁通知により遠隔監視が特別に許可されたが運用コストは高い
■ 4. 運用上の制約
- 常温では動作せず、充放電時には300℃まで電気ヒーターで加熱が必要
- 予熱作業が必要なため停電に備えた非常用電源には不向き
- 充放電に6時間かかるため卸電力市場(30分単位)での蓄電所運用にも不向き
- 短時間で大電力を出し入れすることは不得意
- 再生可能エネルギーの出力変動吸収用途には不適
■ 5. 性能と競争力
- 蓄電容量1200kWh、蓄電出力200kW
- サイクル回数4500回、耐用年数15年
- 2002年当時は鉛蓄電池と比べ優れていた
- 近年急速に普及しているリン酸鉄リチウムイオン電池と比較すると見劣りする
- 使い勝手の難しさから日本ガイシ以外に製造販売する企業はなかった
■ 6. 導入実績と事業撤退
- 2022年時点で全世界250箇所に導入
- 発売開始から20年で250箇所は成功事例とは言い難い
- 実稼働数は非公表
- 耐用年数から初期導入製品はすでに停止している可能性が高い
- 新規受注は停止するがアフターサポートは継続
- 最終出荷日は2027年1月で、2042年頃までサポート体制を維持予定
■ 7. 事業の背景と損失
- 1984年に東京電力と日本ガイシが固体電解質の共同開発を開始
- 東京電力もNAS電池を導入したが現在はおそらく停止
- 中国企業との価格競争ではなく、リチウムイオン電池との競争に敗北
- 2025年度決算で約180億円の特別損失を計上予定
- 2011年度決算でも火災事故の影響で600億円の特別損失を計上
- 合計約780億円の損失