■ 1. ダークエネルギーの概要
- 宇宙の加速膨張などを理論的に説明するのに必要不可欠とされる存在
- 正体が全く分からないため本当に必要か疑問視する研究者も少なくない
- ダークエネルギーを不要とする研究も多数報告されている
■ 2. 最新研究の発表
- 2025年10月にドイツとルーマニアの国際研究チームが論文を発表
- ドイツ航空宇宙技術微小重力センターとルーマニアのトランシルバニア大学の共同研究
- 一般相対性理論を数学的枠組みから見直すことでダークエネルギーがなくても宇宙の加速膨張を理論的に説明できるとする画期的な内容
■ 3. ダークエネルギーの歴史的背景
- アインシュタインの宇宙項導入(1917年):
- 一般相対性理論(1915年発表)のアインシュタイン方程式を宇宙全体に適用すると宇宙が膨張または収縮する結果が出た
- 当時は宇宙は膨張も収縮もせず時間的に不変であると考えられていた
- アインシュタインは方程式に重力に反発する力を表す宇宙項を組み込み定常的な宇宙を表すように修正
- 宇宙項の中の係数ラムダを宇宙定数と呼ぶ
- 宇宙項撤回の経緯:
- 1922年にロシアのフリードマンが宇宙項を導入しても宇宙が膨張や収縮する解があることを発見
- 1927年にベルギーのルメートルも宇宙が膨張する解を独自に導出
- 1929年にアメリカのハッブルが遠い銀河から届く光の波長が伸びていることを発見し宇宙膨張を観測的に実証
- アインシュタインは宇宙項を一生の不覚として撤回
■ 4. フリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量
- フリードマンとルメートルが導いた解をロバートソンとウォーカーが宇宙原理のもとで一般的な形式に整えたもの
- FLRW計量と呼ばれ宇宙の幾何学的な形を表す
- ここから宇宙の膨張を表す運動方程式であるフリードマン方程式が導き出される
- 現在の宇宙モデルの基礎となっている
■ 5. ダークエネルギーの発見
- 1998年の観測:
- パールムッター、リース、シュミットが1型超新星を使って過去50億年にわたり宇宙が加速的に膨張していることを突き止めた
- 重力の効果を打ち消し宇宙を押し広げる未知の力が宇宙に満遍なく存在していることを意味
- その力こそがアインシュタインの宇宙項が示す反発力ではないかとなった
- マイケル・S・ターナーによりダークエネルギーと命名
- FLRW計量にダークエネルギーを考慮に入れた新たな宇宙モデルとしてラムダCDMモデルが構築された
■ 6. ラムダCDMモデル
- CDMはコールドダークマター(冷たい暗黒物質)の略
- 運動エネルギーが質量エネルギーと比べて小さく粒子の運動速度が遅いダークマター
- 宇宙の構造形成を説明するために仮に導入された物質
- 多くの観測データと整合性が良く2025年現在の標準宇宙モデル
- 欧州宇宙機関の人工衛星プランクで観測した宇宙マイクロ波背景放射のデータから宇宙の物質とエネルギーの割合が決定:
- 通常の物質:約4.9%
- ダークマター:約26.6%
- ダークエネルギー:約68.5%
■ 7. ダークエネルギーの正体に関する仮説
- 四半世紀以上経っても正体は全く分かっていない
- 候補:
- 量子力学で理論的に存在が予想されている真空エネルギー
- 重力・電磁気力・弱い力・強い力に続く第五の力クインテッセンス
- どれも決め手に欠ける状態
■ 8. リーマン幾何学の導入
- 1912年にアインシュタインが一般相対性理論を構築中、友人のグロスマンからリーマン幾何学を勧められた
- リーマン幾何学:
- 1850年代にドイツの数学者リーマンが確立した非ユークリッド幾何学の一つ
- 曲がった空間でも距離や角度をちゃんと定義して計算できるようにした幾何学
- ユークリッド幾何学:
- 真っすぐな世界でのみ通じる幾何学
- 三角形の内角の合計は必ず180度、平行線はどれだけ伸ばしても交わらない
- 古代ギリシャの数学者ユークリッドが著書『原論』で体系化
■ 9. フィンスラー幾何学への拡張
- 研究チームは一般相対性理論をリーマン幾何学からフィンスラー幾何学に拡張
- フィンスラー幾何学:
- リーマン幾何学をさらに一般化したもの
- ドイツ及びスイスの数学者フィンスラーが1918年に発表
- リーマン幾何学より柔軟かつ自由で位置や進む方向・速さによって距離の感じ方が異なる
- 例:登り坂と下り坂、向かい風と追い風で距離の感じ方が変わる
- フィンスラー幾何学の特別な場合がリーマン幾何学
■ 10. フィンスラー・フリードマン方程式
- 研究チームがフィンスラー幾何学をFLRW計量に適用してフリードマン方程式を導出
- フィンスラー・フリードマン方程式と命名
- 宇宙項など必要とせずに宇宙の加速膨張を記述することができた
- フィンスラー・フリードマン方程式が示す宇宙モデルにおいて宇宙の加速膨張は謎のエネルギーによるものではなくあくまでも宇宙の挙動の一つに過ぎない
■ 11. 他の修正重力理論
- f(R)重力理論:アインシュタイン方程式に修正を加えたもの
- 創発時空理論:宇宙は根源的なものではなくエネルギーやエントロピーなどから創発すると考える
- 今回のアプローチは一般相対性理論の数学的枠組みである幾何学を見直す、つまり宇宙の見方そのものを変えるというシンプルなもの
■ 12. 今後の課題
- 観測データによる検証が課題
- ラムダCDMモデルは観測データを良く説明できる信頼と実績の宇宙モデル
- ラムダCDMモデルよりしっくりくる説明ができないと標準宇宙モデルの座は奪えない
- クリアすべきステージ:
- 1型超新星の観測
- 宇宙マイクロ波背景放射の観測
- バリオン音響振動
- 重力レンズ効果などの観測
- フィンスラー・フリードマン宇宙モデルは一般相対性理論と量子力学を統合した究極的な統一理論である量子重力理論の足がかりになることも期待される
- 一般相対性理論と量子力学はどちらも正しいのに両立できないという物理学最大の謎の解決に繋がる可能性