■ 1. 『利己的な遺伝子』に対する誤解と批判
- 初版出版後、「冷酷で血も涙もない」「救いがない」「無味乾燥」「冷たい」といった批判が寄せられた
- ある編集者は本を読んで3日間眠れなかったと述べた
- 読者から「毎朝気分良く目覚めることができるか」という質問を受けた
- ある女生徒は「人生とは目的もなく空疎なものだ」と知って泣き出し、教師は他の生徒に本のことを話さないよう忠告した
- 科学全般に対しても同様の非難が投げつけられることが多い
■ 2. ドーキンスの反論と真意
- 宇宙には究極的な意志や目的は存在しないが、個人の人生における希望を宇宙の究極的な運命に託している人間は存在しない
- 人生を左右するのは身近で具体的な思いや認識である
- 科学が生きる意味に満ちた豊かな生を意味のないものにするという非難は徹底的に的外れである
- この考え方は著者の感覚と180度対極に位置し、多くの現役科学者も同じ思いである
- 誤解のあまりの深さに絶望しかけたこともあった
■ 3. 『虹の解体』の執筆目的
- 科学における好奇心(センス・オブ・ワンダー)を喚起することが目的である
- 批判や非難はすべて好奇心を見失った人々に由来している
- 科学がもたらす自然への畏敬の気持ちは人間が感得しうる至福の経験のひとつである
- それは美的な情熱の一形態であり、音楽や詩がもたらす美と比肩しうるものである
- 人生を意義あるものにし、人生が有限であることを自覚するときその力はなおさら効果を発揮する
■ 4. キーツとニュートンの虹をめぐる議論
- 本書のタイトルはキーツから借用した
- キーツはニュートンが虹を単なる分光学的な現象に還元して詩的なものを破壊したと考えた
- しかしキーツの考えは間違っており、科学こそが偉大な詩の霊感の源となるべきものである
- ニュートンによる虹の解体は天体望遠鏡につながり、現在の宇宙に関する知識をもたらした
- ロマンティックな詩人なら、アインシュタイン、ハッブル、ホーキングが語る宇宙のありさまを聞いて心弾まずにはいられないはずである
■ 5. 迷信と科学的説明
- 迷信は不思議な現象に満ちあふれているが、科学的に説明されればたわいのない話である
- 幽霊の話やポルターガイスト、奇跡などがよく語られる
- 迷信を信ずる者は科学的説明を興ざめだと嘆く
- マイクル・シャーマーが霊能者のインチキを暴いた際、視聴者は霊能者ではなくシャーマーを非難した
- ある女性出演者は「みんなが信じていることに水をさすのは不適切」だとシャーマーを攻撃し、視聴者はこれを支持した
- 宇宙の秩序はインチキ手品で説明できるような秩序ではなく、ずっと美しく素晴らしいものである
- すべてのものは究極的には説明可能であると信じている
■ 6. 偽の詩と真の科学
- 超自然現象を信じる心性は詩的な畏敬の念が本来内包する感覚を踏みにじるものである
- 本当の科学がもたらすべきものは詩的な畏敬の念である
- 偽の詩を身にまとった科学は言葉巧みに人々を誤った場所に導く
- 進化の分野における有名な人物の想像力豊かな語り口がアメリカで比類なき影響力をもたらしたが、これは不幸な現象である
- 本書の主眼は「詩の言葉でかかれた科学」ではなく「詩的な畏敬の念を霊感源とする科学」を唱導することである
■ 7. 本書の構成と主題
- 第3章から第5章:
- フラウンホーファー線とスペクトル偏移について扱う「星の世界のバーコード」
- 音の世界を扱う「空気の中のバーコード」
- DNA鑑定と社会における科学の位置づけを扱う「法の世界のバーコード」
- 第6章と第7章:
- 科学的幻想に関する章として迷信的な民間伝承について取り上げる
- 第8章:
- 偽の詩を身にまとった科学の問題について論じる
- 最後の4章:
- 遺伝子の利己性と協調性を扱う「利己的な協力者」
- 種における遺伝子の歴史的記述性を論じる「遺伝子版死者の書」
- 脳によるヴァーチャル・リアリティの創出を論じる「世界の再構成」
- ヒトの脳の起源と進化における役割を考察する「脳のなかの風船」