■ 1. SF作品における重力問題の背景
- 人類は重力なしでは正常に生きていくことができない
- 様々なSF作品ではいかにして宇宙空間で重力を発生させるかが常に課題となる
- ほとんどのSF作品において重力はなぜか存在するものになっている
- スタートレックもスターウォーズも宇宙船の中では皆立ち、重力があるかのように振る舞っている
- SF作品で無重力を表現するためには余計な演出や予算が発生する
- SF作家たちはなぜ重力が発生するのかをこじつけなくてはならなかった
■ 2. 魔法の重力床:スタートレック
- 現代の技術ではできないが未来の技術ならなんとかなるという論法で誕生した
- スタートレックでは重力プレートという概念が導入された
- エンタープライズ号の宇宙船の進行方向に対して床は平行である
- 車や船に乗っているかのような構造である
- エンタープライズ号の断面は複数のデッキ(床)で構成されている
- それぞれの床に重力プレートが埋め込まれている
- 重力プレートがグラビトン(重力子)を制御し、局所的に1Gのフィールドを発生させている
- 具体的に重力子をどう制御しているのか、なぜそれができるのかという説明はない
■ 3. 魔法の重力床:スターウォーズ
- スターウォーズでも重力は魔法によって制御されている
- スターデストロイヤーも船の進行方向に対して床は平行である
- 重力ジェネレーターという機構や慣性補償装置イナーシャルコンペンセーターによって発生している
- イナーシャルコンペンセーターは日本語に訳すと慣性の補償装置である
- 本来存在しない慣性を強引に作り出すという仕組みである
- ハイパースペースでは急加速によってクルーは通常速度から光速に一気に加速するため、普通であればクルーは急速のあまり液状化し死亡してしまう
- イナーシャルコンペンセーターがそうならないようにしているが、やはり仕組みは分からず魔法の重力床になっている
■ 4. 魔法の重力床:日本のSF作品
- 宇宙戦艦大和:
- 魔法の重力床である
- どうやって主人公は床に立っていられるのか、沖田艦長がドシっと椅子に座っていられるのかは不明であった
- 宇宙戦艦ヤマト2199では超文明イスカンダルからもたらされた波動エンジンによって重力と慣性が制御されているという説明が存在する
- 宇宙戦艦ヤマト誕生以前の船は無重力であり、超技術のベールで重力制御が決まるという納得の世界観であった
- やはり重力をどう制御しているのかは超技術のベールに包まれはっきりしていない
- マクロスシリーズ:
- イナーシャルキャンセラー(慣性打ち消し装置)が存在する
- エイリアンシリーズ:
- 重力床が存在し重力を発生させている
■ 5. 現実世界の重力と宇宙ステーション
- 現実世界でも宇宙探査は行われており、宇宙ステーションが実際に建造されている
- 宇宙ステーションは無重力と思われているかもしれないが、実際には地球の90%の重力が発生している
- 宇宙ステーションが時速17500マイルで地球を周回しており、その際に自由落下し続けているために無重力っぽい
- エレベーターが急速落下したら実際に落下していてもエレベーターの中では浮いているので重力は作用していても無重力感は生まれる
■ 6. 無重力環境の健康への影響
- 宇宙ステーションで長く作業した宇宙飛行士の体力は間違いなく低下する
- 人間の体は無重力で長期生存できるように作られていない
- 骨密度が低下する:
- 低重力では人間の骨は体重を支える必要がなくなるため骨が怠け始める
- 骨が弱くなる
- これを阻止するために宇宙飛行士は定期的な運動を必要としている
- 体液のシフト:
- 地球では重力により体液は下に引っ張られる
- 無重力ではそんなことはないため顔がむくみ、足が細り、頭蓋骨を圧迫してしまい体はやばいことになる
- 視力が低下したり眼球の形が歪むなど宇宙飛行関連神経眼症候群と呼ばれている
- 重力は人間が生きる上での必須の条件である
■ 7. 遠心力型重力発生
- 重力を作り出す最も手軽な方法は遠心力で重力を発生させることである
- ニュートンの第3法則によりG=R×ω²で人工重力は回転半径と角速度(回転速度)によって決まる
- 円構造が大きければ重力は発生させやすく、それを早く回せば回すほど発生させやすい
- スタンリー・キューブリックの2001年宇宙の旅で描かれた:
- 巨大なホイール型ステーションの内部に月面と同様の重力が発生している
- ガンダムのアーガマ:
- 居住ブロックが回転することで重力を生み出している
- ガンダム世界の宇宙の植民地スペースコロニー:
- 回転することで重力を生み出している
- 魔法の重力床ではなくリアルな重力発生装置は遠心重力のみである
- 欠点は巨大なホイールを作らなくてはならないことである
■ 8. 加速タワマン型重力発生
- 直線加速による重力発生である
- SFドラマエクスパンスでは宇宙船は目的地に向かって常に加速し続けることで重力を生み出している
- 進行方向と床は垂直の関係にある:
- 従来の魔法の重力床のSFは進行方向と床は平行であった
- 船は浮遊するのではなく目的地に向かって絶え間なく加速し続ける
- 床はエンジンの推力方向に対して垂直に配置される
- エンジンが船を前方に押し出すと床がクルーの足裏を押し上げ、それが重力として感じられる
- 車が急発進するとシートに押し付けられるような感覚と同じ原理である
- 無重力空間で急加速し続ければ同様にGを生み出すことができる
- 床方向に対して加速し続ければ重力環境の完成となる
- タワーマンションをイメージし、そのタワーの下に1Gで加速し続けるエンジンを装備し打ち上げることで重力が生まれる
- スターウォーズやスタートレックのように船のようなレイアウトに対して、エクスパンスはタワーのようなレイアウトになっている
- この加速手段であれば巨大なホイールは必要とせずコンパクトに重力を発生させることができる
■ 9. フリップ&バーン航法
- エクスパンスのフリップ&バーンというコンセプトは加速し続ける際の無限加速の問題に対する答えである
- エクスパンスの宇宙船はA地点からB地点に移動する際、以下のように動作する:
- A地点から中間地点までは加速し続ける
- 中間地点でフリップ(反転)する
- そこからは減速を続ける
- 前半部分では加速し、後半部分は船を反転させ減速することで常に床方向にGが働くようにしている
- これは魔法の重力床ではなく現実的に可能な手段である
- 実現していない理由は無限に1Gで加速し続けるエンジンが存在しないからである
- 現実世界でも短い時間であれば1Gで加速し続けることは可能だが、必ず燃料は切れ加速は止まってしまう
- エクスパンスの世界ではエプスタインドライブという超高効率エンジンによって無限に加速できるという前提のもとこのフリップ&バーン航法が成り立っている
- 魔法の重力床がない代わりに魔法の無限エンジンによって重力問題を解決している
■ 10. SF世界の重力発生方法の分類
- 1つ目:魔法の重力床
- グラビトン制御や重力プレート、慣性ダンパーなど、とりあえず設定を作り出す方法である
- 2つ目:遠心力型重力
- 巨大なホイールを作る必要があり、設計が困難である
- 3つ目:加速タワマン型
- フリップ&バーン航法で重力を生み出すことができる
- 無限に加速できる魔法のエンジンが必要という欠点が存在する
- 重力発生というテーマは非常に奥深く、どんなSF作品も重力問題を解決するために何らかの説明を必要としている