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【ウナギの闇】水産庁のあり得ないミスが発覚しました…

要約:

■ 1. ワシントン条約とウナギ規制の背景

  • ワシントン条約は絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引を規制する国際条約である
  • 絶滅の恐れがある種を3段階のグループ(付属書)に分類して生き物を保護している
  • 付属書Ⅰは最も厳しい禁止、付属書ⅡとⅢは輸出許可書が必要である
  • 2025年11月に開かれた国際会議ではウナギの取引規制を巡る採決が控えていた
  • EUはヨーロッパウナギが日本を含むアジアへ密輸されている現状に対し、見分けるのが困難で抜け道を防ぐ目的で日本ウナギを含むウナギ稚魚の国際取引規制を提案した
  • この提案は否決され、今後も国際取引は規制されないことになった

■ 2. 日本ウナギの絶滅危惧種指定

  • 日本には昔からウナギの食文化があり、世界初の養殖なども生み出したウナギ大好きな国である
  • 乱獲によって日本ウナギは絶滅危惧種に指定された:
    • 2013年に環境省のレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)入り
    • 2014年にIUCNのレッドリストに絶滅危惧種として指定
    • 危機的状況にある

■ 3. 養殖ウナギの実態

  • 日本ではウナギの養殖技術が確立されウナギが流通している
  • 養殖は天然稚魚から成魚に育てる技術で、卵から稚魚を孵化させるものではない
  • 最近話題の卵から育てる完全養殖も発展途上で生産量も全体のごくわずかである
  • 多くの人が「養殖ウナギは養殖しているうちは絶滅しないから大丈夫」という誤解を抱いている
  • 養殖ウナギの稚魚は天然物だとほとんど知られていない
  • 日本ウナギが絶滅危惧種に指定されても多くの日本人は危機感を覚えず、養殖ウナギだから大丈夫だと日常生活でウナギをたくさん食べている

■ 4. ヨーロッパウナギの乱獲

  • 日本ウナギが取れなくなったことで日本は中国から安いウナギをたくさん輸入することにした
  • 1985年から中国ウナギの輸入量を増やし、2000年には輸入量がピークになった
  • 中国、韓国、台湾でもヨーロッパウナギを輸入して養殖が日本向けに輸出されることになった
  • ヨーロッパ側は中国がめちゃくちゃ取っているが中国はウナギをそんなに食べていないため、日本が犯人だと特定した
  • 1990年代にかけてヨーロッパウナギの個体数が激減した
  • 2007年にワシントン条約付属書Ⅱに掲載され、2009年に貿易取引が制限された
  • 2023年までに日本の輸入量はピークの1/3にまで減少した

■ 5. アメリカウナギへのシフト

  • 日本は国産ウナギが減っているため輸入ウナギに頼っていた
  • ヨーロッパウナギの規制後、アメリカウナギを取ることにした
  • 2025年に中央大学が行った国内販売されているウナギの蒲焼の調査によると:
    • ヨーロッパウナギはほぼなかった
    • 約6割が日本ウナギ、4割がアメリカウナギであった
  • ヨーロッパウナギの規制によりアメリカウナギに需要が偏り、違法操業も急増した
  • 輸出諸国は政情不安もあり実態の把握が難しくなっている

■ 6. 資源管理の実態

  • 日本主導で中国、韓国、台湾は池入量を管理している姿勢は見せている
  • 実態は意味のない数字で上限を超えてもたくさん取っても処罰はない
  • EUは別のウナギをターゲットにして乱獲を繰り返すのを防ぐためワシントン条約国際会議で提案をすることになった
  • 日本のウナギは全体の約7割を輸入に頼っている
  • 国際取引が規制されると加工品を含めウナギの稚魚や成魚を輸入しにくくなる
  • 日中韓はウナギ三国同盟として協力してウナギの規制に反対している

■ 7. 日本政府・水産庁の対応

  • 水産庁はEUの規制提案に対し「現在は十分な資源量があると見ていて国際取引により絶滅するような状況ではない。引き続き日本ウナギの生息国である中国や韓国、台湾などと連携しながら対応していく」と主張している
  • 元環境大臣の小泉進次郎氏も「日本ウナギは十分な資源量が確保されており絶滅の恐れはない。EUの動きは極めて遺憾だ」と発言した
  • 絶滅危惧種の日本ウナギに絶滅の恐れはないという意味不明な反論をしている
  • 元水産庁幹部のOBや環境省OBなども水産庁のこれまでの姿勢に苦言を呈している
  • 日本ウナギが2013年にレッドリストに指定される前から庁内で反発があったほど断固として規制に反対する立場を鮮明にしている
  • 海外向けの資料で不利な一文を削除した疑いがかけられている

■ 8. 英文資料からの削除疑惑

  • 2024年度の国際漁業資源の現況の英文版から和文と比較してある記述がなくなっていた
  • 和文原文では「シラスウナギ採捕量の推定は変動があるものの2009年以降は平均して10t程度にとどまっており、現在の我が国への来遊状況は長期的には低水準・減少基調にあると考えられる」と記載されていた
  • 英文版にはこれに該当する文章が見当たらなかった
  • 水産庁の漁場資源課の担当者は「和文が原文であり、事務的な手違いだと考えられ、原文である和文に合わせて訂正します」と主張した
  • もう1つ訳されなかった文が存在していた:
    • 「他方、IUCNの絶滅リスク基準Eを用いた再評価結果では本種は危機(EN)や深刻な危機(CR)ではないことが示されている」
  • IUCNの評価ではAからEの5つの基準を用いて生き物の絶滅を評価している
  • このルールではある基準では絶滅危惧種と評価され、別の基準では絶滅危惧種に該当しないと評価された場合も最終的には絶滅危惧種となる仕組みになっている
  • 日本ウナギは評価基準Aの個体数の減少を理由に絶滅危惧種に該当すると評価されている
  • 評価基準Eでは絶滅危惧種ではないという主張は何の意味もない情報になる

■ 9. 中央大学海部教授による確率計算

  • 7月9日に水産庁はこの資料の訂正版を発表した
  • 中央大学の海部教授のチームは以下の分析を発表した:
    • 2025年3月に公開された国際水産資源の現況の原本には128個の句点があるため128の文で構成されていると考えられる
    • 128の文からランダムに2つの文を選ぶ組み合わせは8128通りである
    • そこから特定の2つの組み合わせの文が翻訳されない確率は0.012%である
    • 主要な2つの主張にとって不利な情報を含む2つの文が揃って翻訳されない確率は0.012%と偶然起こったとは考えにくいとても低いものである
    • 偶然でなかったとすれば、この2つの文が翻訳されなかった背景には何らかの意図があったと推測するのが合理的な考え方である
  • もし仮にEU提案を受けて日本政府がウナギ資源に関する評価・立場を変えたのであればエビデンスや科学を無視したという印象を持たれかねず、外交上の信用を失うのではないかと指摘している

■ 10. 資源量に関する主張の対立

  • EUの主張:
    • 日本ウナギの資源量が減ってずっと減少傾向が続いている
    • 稚魚のシラスウナギの取れる量が減っている
    • 個体数が減って絶滅の危機にある
  • 日本の反論:
    • 十分な資源量が確保されていて国際取引で絶滅する恐れはない
    • シラスウナギの取れる量が減っていてもそれは資源の減少を示すものではない
    • 養殖技術の進歩でシラスウナギを取る量が減ったと主張
    • 養殖業者が減っていたり、過去の採捕量は過大に推定されていたと反論
    • 1990年以降資源は回復しつつあると主張
  • 国内採捕量のグラフを見ても回復傾向は読み取れない:
    • 平成中期頃までは10から30tの幅で推移している
    • 平成後期から令和に入ると多くても20t未満、少ない年は5tも下回る
    • 日本の主張する回復傾向は読み取れない

■ 11. 違法・無報告・無規制(IUU)漁業の実態

  • 資源保護のため表向きは取る量をセーブしていると明言している
  • 違法・無報告・無規制という国際的なルールを無視した不当な漁業IUU漁業が続いている
  • ワシントン条約事務局が2018年に発表したウナギ関連の報告書によると:
    • アジアで養殖された日本ウナギの稚魚が香港を経由して日本に密輸されている
    • 日本税関によると2008年から2017年までで密輸発覚量が7.4tにも達した
    • 国内の池入れ量も2023年から2024年で採捕した量のうち13%の2.1tが報告義務を果たしていない
  • 無報告採捕のシラスウナギで闇が深いことが伺える

■ 12. 報告量と実際の採捕量の乖離

  • 2011年から2020年の日本ウナギの報告量と実際に取れた量のグラフでは:
    • 左の青いグラフが水産庁が出している実際に取れた数量
    • 右の赤いグラフは各都道府県が報告している数量
  • 報告量と実際の量が倍以上も離れている年もあるほどあまりにもガバガバすぎる報告でもはや機能していないレベルである
  • 2011年から2024年では合計約19t分が無報告で流通したと見られている
  • 正規ルートではないルートに流れたり、今でも不透明な取引が常態化している

■ 13. 日本政府の規制反対論

  • ウナギ稚魚をワシントン条約で規制したら天然ウナギの価格が高騰して密漁が増えて絶滅が加速すると主張している
  • 一括で規制したら世界中の養殖業者やウナギ業者も困ると主張している
  • この反論は密漁がすでにあることを認めているようなものである
  • EUが目指しているのはヨーロッパウナギと同じ付属書Ⅱへの掲載である:
    • これは国際取引の完全禁止ではなく違法取引を防ぐ国際取引の規制である
    • 商業的な取引は引き続き可能だが輸出国の発行する許可証が必要になる
    • その取引に問題がないかという確認の手間が1つ入るだけである

■ 14. 留保制度という抜け道

  • 付属書Ⅱへの掲載は禁止でもなければ、留保という制度を利用すれば規制対象種であっても流通を表明した国は規制を免れる仕組みがある
  • もし仮に掲載されても日本と中国など主要輸出入国が留保した場合、お互いの貿易には規制がかからないという抜け道すらある
  • 専門家はワシントン条約での規制ですらまだまだ不完全だという指摘をしている
  • 日本は規制されれば国際取引が面倒になるとか抜け道を使って取引し続けるのは国際的な非難を浴びそうといった様々な理由があるのかワシントン条約のウナギ規制そのものに反対している

■ 15. 採決結果と日本の外交力

  • 最終的に規制に反対が100票、賛成が35票と僅差ではなく反対で否決された
  • よくも悪くも日本の外交力が功を奏した一面がある
  • アフリカ諸国の多くがこの反対に票を投じていた
  • 日本は長年JICA(国際協力機構)で開発途上国への国際協力の一環として人材育成、インフラ整備、食料栄養、医療などの経済的支援を続けてきた
  • こうした外交関係を築くことは今回のような無関係の第三者を味方につける狙いもある
  • アフリカでもウナギを食べる文化はあるものの国際取引とは基本的に無縁でどちらかと言うとどっちでもいいテーマである
  • 小泉元環境大臣も8月の開発会議での働きかけが功を奏したと述べている
  • 日本も中国もアフリカ諸国に多額の投資をしており、普段の貸しのためお世話になっている国に味方してあげようという動きをしてくれる
  • 国連加盟国約193カ国のうちアフリカ諸国だけで54カ国、全体の約28%もの票を握っている
  • 国への少ない投資で多くの票を獲得できる

■ 16. 結果の評価と今後の展望

  • 日本の外交力がある意味実ってしまった結果である
  • ウナギを今後も同じように食べ続けたい人や漁業者には朗報かもしれない
  • 長い目で見ると資源保護の観点からこの結果は正しかったのかは疑問である
  • 10年後、20年後にその答えが出るかもしれない