■ 1. アドバンスフロートの概要
- 日本において浮体式原子力発電の実用化を目指すアドバンスフロートが設立
- アドバンスフロートは2024年に設立された新しい原子力ベンチャー企業
- 核融合系のベンチャー企業が流行っているがあえて核分裂で挑むかなり珍しい存在
- 浮体式原子力発電は素人が適当な思いつきで提案しているわけではなく産業競争力懇談会において浮体式原子力発電について課題やリスクの対策を検討したと説明
- アドバンスフロートの最高経営責任者に就任している姉川氏は東京電力ホールディングスにおいて取締役などを務めた経歴を持つ人物
■ 2. 浮体式原子力発電のメリット
- 最大のメリットは耐震性
- 陸上に立てる原子力発電所は地震や津波といったリスクから逃れることはできないが海の上であれば地震や津波の影響を低減できる
- アドバンスフロートの浮体式原子力発電では仮に全電源喪失が発生したとしても原子炉を海面下に設置することにより周囲の海水を有効に利用して原子炉を冷却できる設計
- 無制限のヒートシンクと表現される
- 燃料が完全に崩壊するまでの崩壊熱を除去できる海水という豊富な水源に囲まれている点は浮体式原子力発電の大きな優位性
- 日本においては新たに原子力発電所を建設する場合に地元自治体の同意を得ることが困難
- 浮体式原子力発電であれば沿岸部から30km程度離れた場所に設置して運転することによってUPZ内の住人は0となる
■ 3. 既存の実用化事例と計画の規模
- 原子力発電所を海の上に浮かべるというアイデア自体はロシアにおいてすでに実用化
- アカデミックロモノソフは2020年5月に営業運転を開始
- それほど沖合いではなく港の近くで運用され発電出力は7万kW
- アドバンスフロートの計画ははるかに発電力が大きい
- 発電力は30万kW程度の小型炉から130万kW程度の大型まで視野に入れて設計を進行
- 船舶用の原子炉をベースに開発するのではなく陸上用の原子炉を海の上に浮かべようとしている
- 水面の下のみでも68mの深さを持つ巨大な箱を作って原子炉を設置するという計画
- 全幅も75m以上あり普通の造船所では建造できない
- 施設全体で見ると実際の大きさはさらに大きい
■ 4. 安全対策と技術的課題
- 周囲に防護ネットを張り巡らせることによって魚雷攻撃や水中ドローンによる攻撃に対処するとされる
- 上部構造物は旅客機の衝突にも耐えるとされる
- 大型旅客機の衝突に耐えられる船というものを実現できるのかという点は多少疑問が残る
- 水中ドローンであらかじめ防護ネットを破壊してから魚雷攻撃を仕掛ければ突破できるように見える
- 全体の高さが108mもあるような巨大な船をどのように建造するのか示されていない
- アドバンスフロートに協力する意向を示している造船会社は現時点では存在せず今のところ絵に描いた餅
- アドバンスフロートの浮体式原子力発電所は自力で航行する能力を持っていない
- このような台船はタグボートによって目的地にまで曳航するがあまりにも水面の下のサイズが巨大であることから普通のタグボートでは数隻用意しても歯が立たないかもしれない
- 実現に向けて解決しなければならない課題は多い
■ 5. 姉川氏の経歴とCHAdeMO
- 最高経営責任者姉川氏は東京電力において近年は電気自動車の事業に取り組んでいた
- 現在も日本発の急速充電規格CHAdeMO協議会の会長
- 2023年には姉川会長の大反論といった報道もあった
- 諸外国の急速充電規格よりもCHAdeMOの方が優れていると対抗姿勢を見せていたが翌年2024年にアドバンスフロートを設立しているところを見るとそれほどCHAdeMOに興味はないのかもしれない
- CHAdeMOについては2023年の時点において経済産業省の充電インフラ整備促進検討会においてCHAdeMO規格のガラパゴス化が指摘されていたが姉川会長が率いるCHAdeMO協議会は特に反論を示していない
- CHAdeMO協議会の公式サイトを見ても更新は2020年を最後に途絶えている
■ 6. 技術的実現可能性
- 浮体式原子力発電という技術自体は核融合などとは異なり既存の技術で実現することができる
- アドバンスフロートが構想している大出力の浮体式原子力発電所を実現した事例は過去にない
- 原子力発電以前にこのような巨大な船を建造する時点で技術的なハードルは高い
- このような船が日本国内において実際に建造されるのであれば一度その姿を見てみたい
■ 7. まとめ
- 浮体式原子力発電の実現を目指す日本のベンチャー企業アドバンスフロートが設立
- 地震や津波に強いといったメリットがあるが逆に言うとそれ以外のメリットは少ない
- 今後協力してくれる造船会社などがアドバンスフロートのもとに集まってくるのか注目される