■ 1. 核融合技術の基礎
- 核融合の定義:
- 水素など軽い原子核同士を融合する技術
- DT反応:
- 重水素と三重水素を核融合してヘリウムを作り出す反応
- 現在の核融合研究の主流
- 核融合に必要な条件:
- 単純に重水素と三重水素を混合しただけでは核融合は起きない
- 電気の反発力に打ち勝って原子核同士を衝突させるための高温が必要
- 重水素と三重水素の組み合わせは比較的低温で核融合するが1億度を超える高温が必要
- 高温プラズマの閉じ込め:
- 普通の容器では溶けてしまう
- トカマクやヘリカルといった強力な磁場を使って高温プラズマを閉じ込める仕組みが開発されている
■ 2. グリーンワルド限界とは
- トカマク装置は70年以上の歴史がある
- これまでの経験上超えてはならないとされるプラズマ密度の上限が存在
- この上限をグリーンワルド限界と呼ぶ
- プラズマ密度を上げすぎた場合の問題:
- プラズマ粒子が炉壁に衝突して不純物が飛び散る
- 不純物がプラズマに混入してプラズマの制御が困難になる
- 最終的にはプラズマの閉じ込めが崩壊するディスラプションに至る
■ 3. 中国のEAST装置によるグリーンワルド限界突破
- 中国科学技術大学と中国科学院の研究チームがグリーンワルド限界の突破に成功したと発表
- 新たな特殊なトカマク装置を作ったわけではない
- 運転操作の手順を見直すことによって実現
- 具体的な手法:
- プラズマ発生前に真空容器に充填される重水素の圧力を従来よりも高めに設定
- 起動段階から電子サイクロトロン共鳴加熱を併用
- 重水素ガスの管理:
- 通常のガスのようにパスカル単位では管理されていない
- 重水素の分子数で管理
- 従来は0.66×10の20乗
- 今回は1.0と1.37と1.73の3種類のパターンを試験
- 電子サイクロトロン共鳴加熱の従来の使用法:
- EASTではこれまで起動時には使用されていなかった
- 長時間運転時にプラズマの温度を保つ補助として使用
- EASTは2025年に1066秒の運転を達成
- 今回は電子サイクロトロン共鳴加熱装置を起動時から使用
■ 4. プラズマ自己組織化(PWSO)の概念
- 適当にトカマク装置を操作して偶然うまくいったわけではない
- プラズマ自己組織化(PWSO)という概念に基づく
- プラズマと炉壁の間で中性粒子の出入りがバランスを取るようになりプラズマ密度が自然に落ち着く現象
- メカニズム:
- プラズマが炉壁に衝突すると壁から中性粒子が放出される
- 中性粒子がプラズマに入ることで密度が上昇
- 密度が上がると温度が下がり不純物放射が増加
- 温度が下がると壁への粒子流が変わり中性粒子の放出量が変化して密度も変化
- この一連の動きを繰り返すことでプラズマの密度は特定の範囲に落ち着く
- 密度フリー領域:
- プラズマ密度が落ち着く特定の範囲のこと
- 理論的に予測されていたがEASTが初めて実証
- ガス圧力や起動時の加熱アシストはこの条件を満たすために実施
■ 5. 実験結果
- プラズマ密度が高まるにつれてダイバーター付近のプラズマ温度は低下することを確認
- ダイバーターの説明:
- 真空容器の中で最も高い熱負荷を受ける装置
- 密度フリー領域内での挙動:
- プラズマの密度を高くすればするほど炉壁との衝突は穏やかになる
- 結果的に不純物が減少
- プラズマを正常な状態で制御しやすい状態に保つことが可能
- 達成した成果:
- プラズマ密度をグリーンワルド限界の1.3倍から1.65倍の状態にまで上昇
- その状態でもプラズマを安定維持することに成功
■ 6. プラズマ密度上昇のメリット
- 核融合出力への影響:
- 核融合出力はプラズマ密度の2乗に比例
- 理論上はプラズマの密度を2倍にすれば出力は4倍になる
- 既存設計への影響:
- 国際熱核融合実験炉ITERや日本の原型炉DEMOなどトカマクを利用した核融合炉はグリーンワルド限界を前提として設計されている
- グリーンワルド限界突破による利点:
- 同じ出力であれば大掛かりな装置が不要になる
- 同じ大きさであればより高出力化が可能
- ヘリカル装置との関係:
- 密度フリー領域内の高温プラズマはヘリカル装置と類似した挙動を示す
- ヘリカル装置はプラズマを安定して閉じ込めることができる反面複雑な構造で製作が困難という課題がある
- ヘリカル装置のような特性をより単純な構造のトカマク装置で実現できる可能性
■ 7. まとめと今後の展望
- 中国のトカマク装置EASTにおいてグリーンワルド限界を突破できることが発見された
- トカマク方式の核融合炉においてプラズマの密度を従来より大幅に向上させることが可能になる
- 日本で進められている原型炉JA-DEMOの概念設計にも影響を与える見込み