■ 1. 新説の提唱と研究概要
- エジプト学者らは古代エジプトの巨大なピラミッドがどのように建てられたのかについて長年にわたり熱い議論を交わしてきた
- 近年エンジニアと地質学者で構成される研究チームが新たな説を提唱している
- 水圧リフト装置を使用しためてある水の浮力作用によりエジプト最古のピラミッドの中心部で重い石を浮かせていたとする説である
- 米科学誌プロスワンに2024年8月に発表された研究論文がこの説を提示している
- この論文は学際的アプローチを用いて階段ピラミッドの内部構造と一致するシステムを発表した最初の論文であると執筆者たちは記している
■ 2. 階段ピラミッドの基本情報
- 紀元前27世紀ごろ古代エジプト人がエジプト第3王朝のファラオであるジェセル王のために建設した
- 高さが約62メートルあり当時最も高い建造物だった
- 重さ300キロもの巨大な石をどのように積み上げてこのピラミッドを建てたのかについては何世紀にもわたって謎のままだった
■ 3. 水圧リフトシステムの仕組み
- 現地の資源を活用した複雑な水処理システムによりピラミッドの内部の垂直シャフトが水力エレベーターと化していた可能性がある
- 浮力を利用した一種の昇降機がピラミッドの中心部まで重い石を持ち上げていた可能性がある
- 古代の小川の水がサッカラ台地の西から階段ピラミッドを囲む深い堀やトンネルで構成されるシステムに流れ込んでいたと示唆される
- 研究チームは古気候学や考古学データなど利用可能なさまざまなデータを分析した結果この結論に至った
■ 4. 古代の気候条件
- 過去のいくつかの研究で数千年前のサハラ砂漠では現在よりも日常的に雨が降っていたことが分かっている
- 当時のサハラ砂漠は砂漠というよりもサバンナに近く乾燥した砂漠の環境よりも多くの植物が育っていた可能性がある
- 気候が湿潤だった時期が正確にいつだったかについては説が分かれている
- 階段ピラミッドが建設された当時の水量は水圧リフトのようなシステムを支えるのに十分だった可能性があると英ケンブリッジ大学の地質考古学者ジュディス・バンバリー博士は指摘する
- 過去の研究で階段ピラミッドが建設された古王国時代に雨水用の排水路が建設使用されていたことが分かっている
- 当時の鳥たちはカエルなど湿地帯に生息する生物を食べていたことが分かっている
■ 5. 専門家による批判と議論
- 水圧リフトを支えるための構造物を満たすだけの降雨量が常にあったのかについて専門家の間で議論されている
- この水圧リフトを支える構造物の一つが階段ピラミッドやその周辺の構造物を囲む乾いた堀と呼ばれる巨大な水路である
- 論文の執筆者たちはこの水路にたまった水が水力エレベーターの動力源だったと考えている
- ユニバーシティーカレッジロンドンの元エジプト考古学上級講師デビッド・ジェフリーズ氏によるとサハラ砂漠が緑に覆われていた時代は紀元前3千年紀の開始前に終わった可能性が高い
- ステファン・ヴィシンスキー枢機卿大学考古学研究所の責任者を務めるファビアン・ウェルク博士の見解:
- わずかな降雨量では水圧リフトを動かすのに必要な水を構造物にためられない
- 構造物の石灰岩内の水分の喪失を補うこともできない
- サッカラを含むエジプト北部では第3王朝時代に冬の降雨により気候が湿潤化したが降雨の強度は比較的弱く乾いた堀を水で満たすことはできなかっただろう
- 論文の執筆者たちの反論:
- このシステムが永続的に水で満たされていた可能性は極めて低いとの見方に同意する
- 当時発生した鉄砲水がピラミッドの建設中に水圧リフトを支えるのに十分な水を供給した可能性が高いと主張している
- この時期にどれほどの降雨や洪水が発生したかを正確に把握するためにはさらなる研究が必要だと論文の中で指摘している
■ 6. ピラミッド内部構造の謎
- 研究者らはジェセル王のピラミッド内の垂直シャフトの明確な目的をまだ特定できていない
- ギザの大ピラミッドなど後に建設された一部のピラミッドには換気用と思われるシャフトがある
- これらのシャフトは採光や地下の部屋の圧力を和らげる目的だった可能性もあるとジェフリーズ氏は指摘する
- 階段ピラミッドは実験的な構造物である:
- 当初はマスタバとして建設が始まったが最終的に階段状のピラミッドとして完成した
- そのためピラミッド内部の特徴が正確に何を意図していたのかは不明なままである
- 階段ピラミッド内のシャフトは長さ200メートルの地下トンネルにつながっている
- その地下トンネルはピラミッドの外にある別の垂直シャフトとつながっている
- この外部のシャフトは深い溝と呼ばれる乾いた堀の水上輸送に使われていたとされる部分につながっている可能性があるがこの点についてはさらなる研究が必要である
- ピラミッド内部のシャフトはピラミッド中心部付近の真下から始まっている
- そこには底にプラグが付いた花崗岩製の箱が置いてある
- この箱はジェセル王の墓室であると広く考えられている
- 論文の執筆者たちはこの箱は水圧リフトを開閉するためのもので リフトの使用時にシャフトが水で満たされる仕組みになっていると説明している
■ 7. 今後の研究の展望
- 他のピラミッドもこの方法で建設されたのかについて論文の主執筆者で古代技術を研究するパリの民間研究所パレオテクニックのシャビエル・ランドロー最高経営責任者はさらなる調査が必要だと述べた
- ランドロー氏の見解:
- これはクフ王やケフレンのピラミッドなどで見つかった巨石をどのように持ち上げたのかという謎を解明する鍵を握っているかもしれない
- これらの巨石は数十トンの重さがあり人力だけで運ぶのは不可能に思える
- 中型の水圧リフトを使えば50から100トンの石を持ち上げることが可能である
- これらのピラミッドに隠されたシャフトの調査はピラミッド研究の有望な手段になるかもしれない