■ 1. 研究の概要
- NYU グロスマン医科大学院などの研究者らが Nature に発表した論文「Astrocytes connect specific brain regions through plastic networks」の内容
- 脳のサポート細胞とされてきたアストロサイトが独自の通信ネットワークを持つことを示した研究報告
■ 2. 従来の認識とその転換
- 従来の認識:
- 脳内の情報処理の主役はニューロン(神経細胞)であると長年考えられてきた
- アストロサイト(星型の脳細胞)はニューロンへの栄養供給や老廃物回収を担う局所的なサポート役にすぎないと見なされてきた
- 新たな発見:
- アストロサイトもニューロンと同様に脳全体にまたがるネットワークを持つ
- 遠く離れた特定の細胞同士が直接コミュニケーションをとっていることが判明した
■ 3. 研究手法
- アストロサイト同士をつなぐ微小な経路(ギャップ結合)に着目
- 無害なウイルスを用いてギャップ結合を通る物質を追跡可能にした
- マウスの脳を透明化する技術と特殊な顕微鏡を組み合わせ脳全体の通信網を3次元画像として可視化した
- 遺伝子操作によってギャップ結合を除去したマウスでは通信網がほぼ消滅したことを確認し物理的つながりがネットワーク維持に不可欠であることを実証した
■ 4. 主な発見内容
- アストロサイトのネットワークの特性:
- 脳全体に広がる立体的な通信ネットワークの存在が確認された
- ニューロンではつながっていない脳領域同士を結ぶ経路が存在する
- ネットワークの可塑性:
- アストロサイトのネットワークは固定されたものでなく状況に応じて柔軟に変化する
- マウスの片側のヒゲを刈って感覚を制限すると該当領域のアストロサイト通信網が縮小しつながりの配線が変化することが観察された
- 経験や生活環境によってアストロサイトの配線が独自に変化する可能性が示唆された
■ 5. 研究の意義と限界
- 意義:
- 1世紀以上にわたる「脳の主役はニューロン」という常識に新たな視点をもたらした
- アルツハイマー病やパーキンソン病など脳の成長・老化メカニズムへの新たな洞察をもたらす可能性がある
- 限界:
- ギャップ結合とアストロサイトはヒトにも存在するが人間のネットワークがマウスと同様の領域を結びつけているかは未確認である