■ 1. 発見の概要
- NASAの火星探査車「キュリオシティ」が採取した岩石サンプルから21種類の有機分子が検出された
- 検出された有機分子は地球上で生命の構成要素となったものと同種であり火星での検出種数としては過去最多
- うち7種類は火星で初めて確認された
- 本成果はオンライン学術誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に発表された
- 研究チームはフロリダ大学のエイミー・ウィリアムズ教授が率いる
■ 2. 探査手法と分析方法
- 探査の経緯:
- キュリオシティは火星生命存在可能性の調査を目的として2012年に「ゲール・クレーター」へ着陸
- 着陸から6〜7年かけてシャープ山の「グレン・トリドン」粘土層エリアに到達
- 粘土層は有機分子の保存に適した性質を持ち太古の火星における水の存在と変動を示唆
- サンプル採取:
- 19世紀英国の古生物学者の名前にちなんだ「メアリー・アニング」地点を採取箇所に選定
- 粘土鉱物を含む砂岩を掘削・粉砕し粉末サンプルを取得
- 分析手法:
- 火星搭載の「火星試料分析装置(SAM)」を使用
- 水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液にサンプルを溶かす「湿式化学分析」を火星上で初めて実施
- TMAHを使用することで大きな分子を分解し従来手法では検出困難な成分の特定が可能となる
■ 3. 検出された有機分子の詳細
- 窒素複素環式化合物:
- 炭素原子と窒素原子で構成される環状構造の化合物
- RNAとDNAの前駆体としての役割を持つ
- これまで火星表面および火星由来の隕石のいずれでも確認されたことがなかった
- ベンゾチオフェン:
- 炭素と硫黄を含む化合物
- 地球型惑星に衝突した隕石から検出されることが多い
- マーチソン隕石との比較実験:
- 1969年にオーストラリアで発見された40億年以上前の隕石「マーチソン隕石」をTMAHと反応させた結果
- メアリー・アニングのサンプルと同様の成分に分解されることが確認された
■ 4. 科学的意義と生命起源との関連
- 保存状態の意義:
- 火星の強烈な放射線環境にもかかわらず複雑な有機化合物が約35億年間保存されていたことが確認された
- 生命起源との関連:
- 隕石を介して火星と地球に同じ有機化合物が供給された可能性が示唆される
- 地球では同種の化合物が生命の構成要素となったとされる
- 太古の火星の居住可能性:
- 太古の火星が生命の存在し得る惑星であったという説がさらに有力となった
■ 5. 今後の探査と課題
- 後継探査機の成果と計画:
- 探査車「パーサビアランス」が採取した岩石に古代生命の痕跡とも考えられるヒョウ柄の斑点が発見された
- キュリオシティはこの1年で火星上の過去最大の有機分子も検出している
- ESA「エクソマーズ」探査車「ロザリンド・フランクリン」およびNASA探査機「ドラゴンフライ」(土星衛星タイタン探査)に同様の湿式化学分析装置が搭載予定
- サンプル回収ミッションの重要性と課題:
- 生命由来か否かの断定にはサンプルを地球に持ち帰り地球上の実験室で分析する必要がある
- パーサビアランスが採取したサンプルの回収は惑星科学界の最優先課題とされている
- NASAとESAによるサンプル回収計画は米議会により2026年1月に中止が決定された
- 科学者らは地球外生命存在の可能性を探るうえで不可欠な計画であると主張を続けている
- NASAジェット推進研究所(JPL)のアシュウィン・バサバダ氏はサンプル回収が数十年に及ぶ謎解明への唯一の道であると述べた