■ 1. 現状: ブンディブギョ型エボラの感染拡大と既存ワクチンの限界
- コンゴ民主共和国でブンディブギョ型エボラウイルス(ブンディブギョウイルス)による感染が拡大
- ブンディブギョ型はザイール型より希少な種であり、既存ワクチン「エルベボ」はザイール型向けに開発されたもの
- エルベボはブンディブギョ型に対して確実な防御効果を発揮しないため、現行の流行対応には力不足
- 当局は新たなワクチン候補の開発を急いでいるが、流行を食い止めるかは不透明
■ 2. 既存ワクチンが効果不十分な理由
- ワクチンの仕組み:
- 病原体の一部を安全な形で免疫系に示し、将来の感染に対応できるよう訓練する
- エボラウイルスでは、ウイルス表面の糖タンパク質が免疫訓練の主な標的
- 糖タンパク質の種間差異:
- ザイール型とブンディブギョ型は核となる構造は類似しているが、表面の糖タンパク質は約35%が異なる
- クリスマスツリーのオーナメントに例えると、ブンディブギョ型は飾りの約3分の1が別の形状に置き換わっている
- エルベボの交差免疫効果の限界:
- サルを用いた実験では、ザイール型ワクチン接種後にブンディブギョ型ウイルスにさらした場合、生存率は75%にとどまった
- 保健当局への不信感から対策が難航する現地状況では、75%の有効性は不十分と判断される
- WHOもエルベボの他種エボラへの交差免疫効果を「限定的で結論を下せない」と評価
■ 3. 開発中のワクチン候補
- 感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が複数のワクチン候補を選定・資金拠出(総額約6200万ドル)
- VSVベースのワクチン(IAVIおよびパブリック・ヘルス・ワクチンズ社が開発):
- 弱毒化した水疱性口内炎ウイルス(VSV)にブンディブギョ型の糖タンパク質遺伝子を組み込む手法
- 強力な免疫反応が得られ、通常1回接種で効果を発揮
- 副作用(発熱・体の痛み・倦怠感)リスクが高く、妊婦や免疫低下者には慎重な対応が必要
- 製造に時間と専門能力が必要で、ヒト臨床試験開始まで7〜9カ月を要する見込み
- WHOがワクチン候補中で最も有望と評価
- ChAdOx1ベースのワクチン(オックスフォード大学・アストラゼネカ・インド血清研究所が開発):
- チンパンジーに感染するアデノウイルスを利用(体内で増殖しないよう改変済み)
- 副作用リスクはVSVベースより低いが、初期試験で2回接種が必要
- ヒト臨床試験まで2〜3カ月を要する見込み
- mRNAベースのワクチン(モデルナ社が開発):
- 脂質粒子でブンディブギョウイルスの遺伝情報を細胞に届け、免疫反応を誘導する
- 設計・合成が数日で可能というスピードが最大の強み
- 他ワクチンより低温保管が必要で、世界規模での配送に課題
- エボラへのmRNAワクチンのヒト臨床試験例がなく安全性データが不足しており、試験開始まで数カ月かかる見込み
■ 4. 理想のエボラワクチンと資金調達の課題
- 理想のエボラワクチンの条件:
- エボラウイルス全種および近縁のマールブルグウイルスに対しても保護効果を持つ
- 糖タンパク質(飾り)ではなく、全種に共通する構造部品(飾りを取り付ける「フック」)を免疫標的とする必要がある
- 共通標的の研究は流行中より流行間に進めるべきとされているが、流行間の研究資金が慢性的に不足
- CEPIは今回の流行開始前の2月に共通標的研究推進のための5カ年戦略を発表していたが、間に合わなかった
- 流行が起きるたびに多額の資金が緊急対応に投じられる「モグラたたき」的状況が続いており、専門家はより優れたワクチン開発への継続的投資の必要性を訴えている