■ 1. 研究の背景と目的
- オキシトシンは集団内の協力関係を高める一方、集団外への警戒心・攻撃性を高める作用があることが知られている
- 過去の研究では点鼻スプレーによる投与で集団内協力の促進が確認されていたが、競争によってオキシトシンが自然増加するかは不明だった
- チューリッヒ大学のシャーロット・デブラ氏らが、強い民族的アイデンティティを持つボリビアの先住民族・ツィマネ族を対象に調査を実施
■ 2. 調査対象: ツィマネ族の概要
- アマゾン川流域に住む採集農耕民で、約95のコミュニティに分散して生活
- 20世紀半ばまでボリビア社会からほぼ孤立していたが、宣教師の到着や道路整備により社会との繋がりが生まれた
- コミュニティ内の結束は強く、異なるコミュニティ間での戦争の歴史は記録されていない
- コミュニティ間で宴会・共同狩猟・漁業・インフラ整備・サッカー試合を定期的に実施
- 男性は平均週3.1回サッカーをし、週1回は近隣コミュニティとの試合を行う
■ 3. 実験の設計と方法
- 参加者: ツィマネ族90名(男女含む)
- 測定指標: サッカー試合前後の尿中オキシトシン濃度
- 試合の3条件:
- 同一コミュニティの選手同士による試合
- 異なるコミュニティの選手同士による試合
- ツィマネ族と非ツィマネ族の選手による試合
■ 4. 実験結果
- オキシトシン濃度が大幅上昇した条件:
- 同一コミュニティの選手同士による試合
- ツィマネ族と非ツィマネ族の選手による試合
- オキシトシン濃度があまり上昇しなかった条件:
- 異なるコミュニティ(近隣ツィマネ族)の選手同士による試合
- 女性参加者はいずれの試合後もオキシトシン濃度の上昇を示さなかった
■ 5. 結果の考察
- 同一コミュニティ内試合でのオキシトシン上昇:
- 動物行動学の「Nasty Neighbour Effect(厄介な隣人効果)」と関連付けられる
- 近くにいる見慣れた同種個体は資源を奪う潜在的脅威とみなされ、強い攻撃行動を誘発する
- 家族単位のチーム編成、試合の賞品をめぐる競争、勝利による地位の誇示が協力関係促進のオキシトシン分泌を促したと推測される
- ツィマネ族と非ツィマネ族の試合でのオキシトシン上昇:
- 完全な部外者との競争において、集団内の協力促進のためにオキシトシンが分泌された可能性がある
- 近隣ツィマネ族との試合でオキシトシンが上昇しなかった理由:
- このレベルの競争は、社会的地位や集団防衛にとって重要でないと認識されていることを示唆すると研究者らは考察
- 女性でオキシトシン上昇が見られなかった理由として挙げられる仮説:
- 男性戦士仮説: 男性は集団レベルの競争に対してより敏感である
- ベースライン差異仮説: ツィマネ族女性は元々オキシトシン濃度が高く、上昇幅が小さい
- 文化的意味仮説: 女性にとってサッカーが重要な意味を持たない
■ 6. 研究の限界と結論
- 本研究のみではオキシトシン上昇がチーム内結束のためか対戦相手との競争促進のためかを判断できない
- 研究者らは「協力は競争に勝つための有効な手段となり得る。オキシトシンはその関係に関与する重要な要素である」と結論付けている