■ 1. 研究概要
- 東京慈恵会医科大学・横浜市立大学の研究グループが、新型コロナ後遺症における倦怠感・抑うつ症状の原因メカニズムを解明し、世界初の治療薬候補を発見
- 原因: 新型コロナウイルス感染により再活性化したヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が産生するSITH-1タンパク質による脳内アセチルコリンの低下
- 治療薬候補: 既存の認知症治療薬ドネペジル(アリセプト)がSITH-1関連の後遺症症状を改善することを示した
■ 2. 研究背景
- 新型コロナ後遺症(Long COVID)は、COVID-19罹患後2か月以上にわたり倦怠感・抑うつ・ブレインフォグ・嗅覚障害・睡眠障害などが持続する疾患
- 発生率はCOVID-19患者の10〜25%と報告され、世界で数億人が罹患していると推定される
- 倦怠感・抑うつ症状は生活・労働への影響が大きく、社会問題となっているが有効な治療薬が存在しなかった
- 研究グループは以前、嗅球に潜伏するHHV-6の再活性化時に発現するSITH-1タンパク質がうつ病の原因となることを報告しており、新型コロナ後遺症との関連を仮説として持っていた
■ 3. 研究内容と成果
- 患者の血中抗SITH-1抗体の測定:
- 新型コロナ後遺症患者の約7割で抗SITH-1抗体が陽性
- 抗SITH-1抗体陽性患者は強い倦怠感・うつ病様症状を呈することが判明
- マウスモデルによる機序解析:
- SITH-1タンパク質を嗅球に発現させたマウスで脳内アセチルコリンの低下と倦怠感・うつ病様行動を確認
- コリンエステラーゼ阻害剤ドネペジルを投与したところ、倦怠感・うつ病様行動が改善
- 第II相臨床試験のサブグループ解析:
- 二重盲検ランダム化比較試験において、抗SITH-1抗体陽性の後遺症患者に対しドネペジル投与を評価
- チャルダー疲労尺度スコアおよびHADSうつ病尺度スコアが有意に改善
■ 4. 今後の応用・展開
- ドネペジルの適応拡大によるドラッグリポジショニング(既存薬再開発)で短期間での実用化が期待される
- コンパニオン診断薬の開発:
- 企業との共同研究により抗SITH-1抗体を測定するELISA法を開発中
- 血中抗SITH-1抗体を指標とした「ドネペジル治療が期待できる患者群」の層別化を目指す
- 脳内アセチルコリンと抗炎症機能:
- アセチルコリンは脳内の抗炎症機能を担っており、SITH-1による低下が脳内炎症を引き起こしやすくする
- 脳内炎症はうつ病を含む様々な疾患の倦怠感・抑うつ症状に関連するとされており、ドネペジル類似薬の応用が期待される
- うつ病の治療薬・予防薬の開発にも貢献していく方針
■ 5. 論文情報
- タイトル: Donepezil Ameliorates Fatigue and Depression in PASC Patients With HHV-6B SITH-1-Induced Acetylcholine Deficiency
- 掲載誌: Frontiers in Pharmacology
- DOI: 10.3389/fphar.2026.1807203
- 研究支援: 日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業