■ 1. 研究概要
- 東京科学大学が高活性と安定性を両立したアンモニア合成触媒を開発・発表
- 研究の3つのポイント:
- 特殊な状態「エレクトライド」の活用
- エレクトライドを安定化する材料設計の実現
- 当該材料とルテニウムを組み合わせた触媒の作成
■ 2. エレクトライドの概要と従来の課題
- エレクトライドの定義:
- グラフェンのような単元素層の表面にアニオンとしての電子層が存在する物質の総称
- 結晶表面に高濃度で電子が存在するため仕事関数が極めて低い
- 表面電子を直接反応に利用できるため触媒として優れた性質を持つ
- 従来のエレクトライドの課題:
- 空気中では不安定であり触媒への応用が困難
- 従来手法では電子が結晶の層と層の間に存在する2次元エレクトライドを利用していたが不安定
■ 3. 新型エレクトライドの設計
- 材料: バリウム・シリコン酸化物を使用
- 特性: 表面付近に空の低エネルギーバンドが存在するという特殊な性質を持つ
- 製造プロセス:
- バリウム・シリコン酸化物を酸素雰囲気下で加熱
- 表面の窒素イオンの一部が酸素イオンに置換される
- 結果として電子が表面にドープされ、結晶表面に高密度の電子層が形成される
- 従来のエレクトライドとは性質の異なる新しいタイプのエレクトライドが形成される
■ 4. 反応機構
- 表面エレクトライドの仕事関数は1.5電子ボルトであり、電子が表面から出やすい状態
- 窒素分子の活性化:
- 通常、窒素分子は電子親和力が小さく電子を受け取りにくい
- 表面エレクトライドからは電子を受け取りやすく、窒素分子イオンとして活性化される
- 活性化された窒素分子イオンは表面を保護する役割も果たし、大気中での安定性を実現
- 役割の分担:
- 表面エレクトライド: 窒素分子を活性化
- ルテニウム: 水素を活性化
- 反応フロー: 表面エレクトライドが窒素に電子を供与 → ルテニウム上で窒素分子イオンと水素が結合 → アンモニアとして脱離
■ 5. 触媒の再生サイクルと安定性
- 仕事関数の変化による触媒再生の確認:
- 電子ドープ直後(エレクトライド状態): 仕事関数 約1.5電子ボルト
- 窒素ガス導入後: 仕事関数が 約3.5電子ボルトに上昇
- 水素ガス導入後: 仕事関数が 約1.5電子ボルトに回復
- 窒素分子イオンが水素と反応してアンモニアとして脱離することによりエレクトライドが再生される
- 触媒として循環・繰り返し使用が可能
■ 6. 従来技術(ハーバー・ボッシュ法)との比較
- ハーバー・ボッシュ法の条件: 150気圧超の高圧、350〜500℃の高温が必要であり大規模な装置と大きなエネルギーを消費
- 今回の触媒の条件: 300℃・1気圧という比較的温和な条件
- 300℃・1気圧の条件において世界最高水準のアンモニア生成速度を達成
■ 7. 応用展望
- グリーンアンモニア:
- 再生可能エネルギー由来の水素を使ったグリーンアンモニアの実現に大きく前進
- 水素キャリアとしての活用:
- 水素は次世代燃料として期待されているが取り扱いが困難なため、他の物質と結合させる水素キャリアの研究が進められている
- アンモニアは水素キャリアの一つだが、合成時の大きなエネルギー消費が課題であった
- 今回の触媒によって水素キャリアとしての利用可能性が高まる