■ 1. 概要
- 日本原子力研究開発機構(JAEA)が2029年度にも高温ガス炉(HTTR)を用いた水素製造の実証試験を開始する
- 原子炉の熱を直接利用した水素製造は世界初
- 施設は茨城県大洗町に立地し、研究炉の熱出力は3万キロワット
■ 2. 高温ガス炉の安全性
- メルトダウンが起きにくい理由:
- 冷却材に黒鉛を使用し、温度が上がりにくい性質を持つ
- 熱伝導性が高く、熱を外へ逃がしやすい設計
- 冷却設備が停止しても炉心温度が過度に上昇しない構造
- 水素・水蒸気爆発リスクの低減:
- 冷却材にヘリウムガスを使用
- ヘリウムは化学的に安定しており、従来の軽水炉で生じる爆発リスクを抑制
■ 3. 安全実証試験の結果(2024年3月)
- 原子炉が冷却できない事故を想定した実証試験を実施
- 出力100%の状態からヘリウムガスの循環を停止、制御棒も挿入しない条件下で試験
- 数分以内に出力が大幅に低下し、自然冷却による停止を確認
■ 4. HTTRの経緯
- 1998年に初臨界
- 2011年の東京電力福島第1原発事故後に運転停止
- 厳しい新規制基準の適用を経て2021年に再稼働
■ 5. 水素製造の目的と意義
- 脱炭素社会の実現に向けた水素製造が主な開発目的
- 水素の用途:
- 発電、航空機・船舶の燃料
- 化学製品・鉄鋼産業における温暖化ガス排出ゼロ化
- 製造効率の比較:
- 高温ガス炉(最大950度): 46.9%
- 従来型軽水炉(最大出口温度約300度): 24.9%
- 稼働時に温暖化ガスを排出しないため、水素の製造から消費まで排出をほぼゼロにできる
■ 6. 規制審査の進展と建設計画
- 2025年7月の原子力規制委員会の審査で大きな進展:
- 原子炉建屋は原子炉等規制法の適用範囲とする
- 水素製造施設はその範囲外と判断され、コスト増・工期延長を回避
- 2026年中にJAEAと三菱重工業が共同で水素製造施設の工事および炉の改造工事に着手
■ 7. 実証炉の計画
- 出力: 約20万キロワット(研究炉の約6.7倍)
- 製造能力: 燃料電池車(FCV)換算で年間20万台分の脱炭素水素を製造可能(試算)
- 国の開発予算: 2026年度に628億円を計上
- 稼働目標: 30年代後半
- 茨城県の大井川和彦知事が2025年6月、臨海部の水素需要を理由に県内への実証炉設置を国に要望
■ 8. 国際動向
- 中国:
- 山東省の実証炉で2024年3月から温水を地域暖房に活用するプロジェクトを開始
- 商業化において先行
- 米国:
- Xエナジー社がエネルギー省およびアマゾンの支援を受けてプロジェクトを推進
- 英国:
- 30年代初期の実証炉運転開始を目標
- 2025年6月14日に高市首相とスターマー首相(当時)が高温ガス炉での協力を合意
- 日本の立場: 基盤技術では世界水準を維持していると機構担当者は評価
■ 9. 課題
- 出力・効率面:
- 従来型軽水炉(100万キロワット)と比較してエネルギー効率が劣る
- 複数基の建設が想定され、建設期間やコストが上振れする可能性
- リスク:
- 核分裂反応を利用する以上、火力・再生可能エネルギーよりリスクは高い
- 使用済み核燃料の処分:
- 日本の全量再処理政策と高温ガス炉燃料の多重構造が相容れず、再処理に時間とコストがかかる
- 米国の研究では直接処分が有力とされる
- 商用化の実績不足:
- 日本の原子力研究では技術実証に成功しても商用化に至らなかった前例が多い
- 電力会社など民間企業を巻き込んだ戦略が必要