■ 1. 研究発表の概要
- 転移温度の更新:
- 高圧ねじり合成法によってイットリウム系銅酸化物超伝導体の転移温度を更新した
- 九州工業大学などの研究チームによる発表
- 到達した転移温度:
- 今回の研究における転移温度は-143℃
■ 2. 超伝導と転移温度の基礎
- 超伝導の定義:
- 特定の金属や化合物などの物質を超低温に冷却すると電気抵抗が0になる現象
- 転移温度:
- 物質が超伝導を示すようになる温度
- 通常は液体ヘリウムによる冷却が必要となる
- アルミニウムの転移温度は-272℃
- 高温超伝導:
- 高価な液体ヘリウムを使用せず、液体窒素などでも転移温度まで冷却できる超伝導
■ 3. 原料と前処理
- 3種類の原料:
- 酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化銅を使用する
- アセトンによる混合:
- アセトンを溶媒として3種類の原料物質を均一に混ぜ合わせ、黒色の液体とする
- アセトンを蒸発・乾燥させることで均一に混ざった混合物質を得る
■ 4. 中核技術としての高圧ねじり加工
- 加工装置:
- 圧力を加えながら回転する、回転する万力のような装置で実現する
- 圧力は最大で6万気圧に相当する
- 原料は直径10mmの円盤状にしてセットする
- 加工が生む内部構造:
- 一見すると加工の前後で大きな変化はないように見える
- 通常の合成プロセスでは発生しない巨大な歪みと微細な構造変化、結晶格子の変化を内部に強制的に作り出す
- ねじり回転数:
- 材料に圧力を加えた状態で回転させる回数を指す
- 回転数1回では丸い形状を保つが、3回では変形・破断する
- 変形・破断は成功の指標:
- 失敗作のイメージとは逆で、変形している方が良い
- 高密度の歪みや結晶欠陥が導入されている
■ 5. 加熱処理による酸素の取り込み
- 加工後に必要な熱処理:
- 酸素雰囲気に保った電気炉に入れ、450℃で10時間の加熱処理を行う
- これにより結晶格子に酸素を取り込むことができる
■ 6. 正孔濃度と最適ドープ量
- 最適ドープ量の必要性:
- 酸化物超伝導体では銅原子1個あたりに注入される正孔の濃度を最適ドープ量にする必要がある
- 最適ドープ量は16%程度
- 正孔量と転移温度の関係:
- 正孔が不足しても過剰であっても転移温度は低くなる
- 従来構造の限界:
- 従来の結晶構造では最適ドープ量を実現しても転移温度は-180℃程度にとどまっていた
- 新たな最適ドープ量の実現:
- 高圧ねじり加工による格子の拡張と歪んだ非平衡な結晶構造では正孔の入る余地が変化する
- これにより新たな最適ドープ量を実現している
■ 7. 従来の加圧研究との違い
- 従来の加圧研究:
- 超伝導物質に圧力を加える研究自体は以前から存在した
- 通常は物質固有の転移温度は変化しない
- 水素などでは加える圧力によって転移温度が変化する現象が知られている
- 加圧により原子間距離が縮小することで転移温度が上昇する
- 圧力をかけなくなると元の転移温度に戻る
- 今回の研究の優位点:
- 常圧環境においても転移温度の高い状態を保つことができる
- この点が従来の研究事例との大きな違いとなる
- 上昇幅:
- 加工前の-180℃程度に対し加工後は-143℃程度となり、40℃程度引き上げた
■ 8. イットリウム系銅酸化物超伝導体の性質
- 結晶構造の役割:
- イットリウムはレアアースとして知られている
- イットリウム・バリウムによるペロブスカイト型結晶構造が超伝導の発現に重要な役割を果たす
- 銅単体の性質:
- 銅は電気をよく通す物質である
- 意外にも銅単体では絶対零度まで冷却しても超伝導を示さない
■ 9. 今後の展望と実用化の課題
- 社会実装:
- 九州・沖縄地域大学発スタートアップ創出プログラム「PARKS」の援助を受けて社会実装化を進める
- 部分的な効果という課題:
- 加工後の物質は全体の転移温度が上昇するわけではなく、上昇するのは一部分に限られる
- 実用化には転移温度が上昇する部分の体積を増やす必要がある
- 全体の転移温度を上昇させられれば一部分のみを取り出す作業も不要になる
- 技術の波及可能性:
- この技術は他の超伝導物質においても展開できる可能性がある