■ 1. 「インチキビジネス用語」への皮肉
- インチキビジネスマンの三種の神器:
- 地政学、行動経済学、○○工学の3つ
- 「地政学的」という言葉の言い換え:
- なるべく使わないようにしている
- 「地政学的要因」の大半は「地理的条件」「地理的要因」で言い換えられる
■ 2. アリエリー教授の論文撤回
- アリエリー教授の現状:
- まだ教授職にとどまっていたことが驚き
- 学会からとっくに追放されたと思われていた
- 2002年論文の撤回:
- 仕事の先送りと締め切り設定に関する論文が2026年9月に取り消しになった
- デューク大学の研究所も廃止される見込み
- 関連する背景として、科学研究の多くの成果が再現できない「再現性の危機」がある
- 行動経済学への不信の高まり:
- 『予想どおりに不合理』の著者の失墜で、行動経済学がますます怪しく見えてくる
- MITメディアラボ教授という経歴も、今となってはきな臭く見える
- アリエリーの著書『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』の題名自体が皮肉として挙がる
■ 3. 『ファスト&スロー』の再現性
- トレーダー御用達の本だが、内容の6〜8割は再現実験で確認できないとされる
- 損失回避とプロスペクト理論は再現に耐えたため、大きな問題にはならなかった
- アリエリーはおもしろいが、データ捏造などの不正が発覚したため挙げない方がよい
- 『ファスト&スロー』はケチがついたものの、価値が完全に失われたわけではない
■ 4. ジーノ教授の訴訟と再現性の広がり
- フランチェスカ・ジーノの訴訟:
- 正直さの研究で露骨な捏造をData Coladaに指摘された
- 指摘した側を訴えたが、主張の大半は裁判所に却下された
- 不正を指摘した側を訴えるスラップ訴訟であり、却下は科学不正に対する勝利
- 行動経済学の成果の大半がインチキだったと判明しつつある
- マズローの欲求段階説:
- その後の実験で一貫した結果は出ていない
- それでも支持者が多く、コンサルの資料に今でも載っている
- そろそろ知識をアップデートすべき
- 信頼できる実験と崩れた実験の区別:
- 「目の写真を貼ると不正が減る」などの有名な実験には信頼できないものが少なくない
- 4枚カード問題のように昔から何度も追試されてきた実験は否定されていない
■ 5. はてなブックマークの反応
- 全否定・冷笑に近い同意:
- アリエリや人気解説本の失墜を、分野全体の崩壊とほぼ同一視する層
- 脳科学のバラエティ的な扱いと重ね合わせる声もある
- 再現性危機は認めつつ全否定には留保する層:
- 最も厚い層
- プロスペクト理論、損失回避、参照点依存は残るとする
- 留保層の論拠:
- 心理学者であるアリエリやジーノは、セイラーら行動経済学者の本体と区別すべき
- 143論文中、厳密な基準で約54%、緩い基準で約74%が再現しており「ほとんどインチキ」は誇張
- 心理学全般の再現性危機の一部であり、事前登録や大規模追試で健全化しつつある
- 証拠を出していたからこそ検証でき、最初から検証できない言説とは違う
- 川越敏司『行動経済学の死』を読むべきという短評も、この層に近い
- まとめの構成・論証への不信:
- 後半のマルクスの話に対し、無関係で信憑性が下がるという反応が目立つ
- 地政学の巻き込みも、用語の俗用と研究領域を混同しているとの指摘がある
- 不正をした著者の本を貼るまとめの作り方自体を問題視する声がある
- タイトルが強すぎて、ダークパターンやシステム1/2など残る概念まで疑わしく見える
- 他分野への横展開:
- 地政学はバズワードにすぎないという意見と、まともな研究領域だという意見が並ぶ
- 社会学、経営学、マルクス経済学などは証拠を出さない分もっと悪いとする意見がある
- 主流経済学やMMTへの当てこすり、恋愛工学など「工学」の名付けへの皮肉もある
- 再現性を求めると政治学や軍事学も成立しないという方法論的留保が出ている
- トイレのハエや恋愛工学など、見出しや脱線に反応した軽いツッコミも多い
- 全体の傾向:
- アリエリ級の不正と人気書の再現失敗が重い事実である点はおおむね一致
- 「行動経済学そのものがぼろぼろ」という一般化には、かなりの割合が距離を置く
- 心理学者の不正と基礎概念の区別、再現率の盛り方、マルクスや地政学の無関係さが繰り返し補正される
- 注目を集めやすいのは、どこまで死んでどこが残るかを切り分けるコメントや脱線の指摘
- 争点は行動経済学の中身より、インチキと呼ぶ範囲とまとめの編集姿勢にある
■ 6. 計画経済と価格情報
- 共産主義と全体主義の切り分け:
- 共産主義を経済体制にすぎず全体主義ではないとするのは、最も重要な点を外している
- 計画経済で資源を配分するには、私有と市場価格を制限しなければならない
- 価格が消えると、不足や優先順位の情報が失われ、当局の判断だけが残る
- ハイエクの錫の例(1945年):
- 錫鉱山が洪水に遭うと、計画経済では報告、割当の改訂、工場の調整に何週間もかかる
- 市場経済では錫価格の上昇という1つの数字だけで、素材転換や節約が一斉に起こる
- 計画経済の失敗の主因:
- 原因は人間の強欲ではない
- 分散した知識を中央が集めきれず判断を誤るためであり、成功例がないのもそのせい
- これに対し、共産主義経済体制のみを論じており中国の政治の話ではないという反論がある
- 反論側の立場では、中国も共産主義経済の実現に失敗した国の1つ
■ 7. マルクスの思想と時系列
- 社会体制が先で経済システムが後:
- 1848年の『共産党宣言』までに、唯物史観や剰余価値論の骨子はほぼ完成していた
- マルクスにとって重要なのは一貫して実践と革命だった
- 社会制度(プロレタリア独裁)が主で、経済制度は従にすぎない
- マルクスの活動の経過:
- 『資本論』の後も第一インターナショナル結成やパリ・コミューン支持など実践を続け、すべて失敗した
- 活動が実を結んだのは、死後30〜40年後の1920年代以降
- 英国労働党、ドイツ社会民主党、フランス人民戦線、ソ連などの形で実現した
- 全体主義に依存しない共産主義経済システムは、議論の出発点としてそもそも存在しない
- 理想と現実の共産主義:
- 『資本論』の理想的な共産主義は、資本主義の進化発展形
- 現実の共産主義革命はロシアや中国など後進国で起こり、先進国で成功した例はない
- 先進国で革命が起きない理由:
- 奴隷労働的なプロレタリアートは、資本主義の発展の中で是正、低減されてきた
- 8時間労働や児童労働の禁止は、マルクスや社会運動の成果
- 資本主義は穏当な形でマルクスらの社会運動を取り込み、すでに進化している
- マルクスが志向した社会運動は「もう勝っていて、終わっている」
■ 8. 資源配分問題と中国のAI管理
- テクノクラシーの失敗:
- 理論としての共産主義は、適切な資源配分をどう実現するかという問題を抱える
- 高度な官僚による統治で達成できるとされたが、失敗したのが現実の共産主義
- 改革開放で共産主義を進化させたと称する中国も、同じ失敗で自壊している最中
- 中国のAIによる経済管理:
- テクノクラートの代わりをAIやネットワークに担わせようとしている
- 電子決済の強制で、人民の資金の流れの完全な把握には成功している
- それは国民経済計算の三面等価のうち、分配(所得)を把握したにすぎない
- デジタル人民元の出し入れで、生産や支出を自由にコントロールできるわけではない
- 政府支出の大半が不良債権に吸われ、急速に破綻しつつある
- AI管理の根本的障害:
- 社会制度的なロスを除いてAIが管理すれば可能かは、思考実験としては成立する
- ただしそのロスの部分で生計を立てているのが中国共産党自身
- 不要部分が心臓部である以上、共産党が切除を認めるはずがない
- 党員全員がニーチェ的な超人でなければ成立せず、テクノクラシーと実現性は大差ない
■ 9. マルクス以降の経済学の進化
- 経済学の課題:
- アダム・スミス以降、人間とその活動をどう理論化、モデル化するかに苦心してきた
- その産物が経済人という考え方で、マルクスの考え方もおおむねこの流れにある
- 経済人への批判と発展:
- 人間は常に合理的ではないという批判を受け続けてきた
- 経済学的に正しい行動を問うゲーム理論が生まれた
- 人間らしい感情を取り込もうとする行動経済学が生まれた
- 経済成長モデルの発展:
- ミクロ的基礎付けにより、ミクロとの融合が進んだ
- 従来モデル化できなかった気候変動や技術革新まで理論に組み込もうとしている
- 内生的経済成長理論で2018年にノードハウスとローマーがノーベル経済学賞を受賞した
- マルクス主義の位置づけ:
- 当時の問題提起や理論として一定の意義はあり、その成果は現代社会に取り込まれている
- 純粋なマルクス主義が現代でも最善の経済思想とするのは、死後150年の経済学の歩みを踏みにじるもの
- 経済学を舐めるべきではない
■ 10. KADOKAWAの新刊
- 行動経済学への不信が広がる中、KADOKAWAが『行動経済学が証明する最高の勉強法』を10月16日に発売する
- 同書の主張:
- 努力、根性、やる気を一切不要とする勉強法
- 気合や意志の力ではなく「脳のバイアス」を利用して勉強を自動化する