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牛肉を焼いた時に出る脂肪をドリッピングと言い、イギリスではこれを貯蔵してパンに塗りつけたり、料理用の...

牛肉を焼いた時に出る脂肪をドリッピングと言い、イギリスではこれを貯蔵してパンに塗りつけたり、料理用の油として再利用する習慣がある。

ところがこのドリッピングが元で大騒動になった事があった。それが、リーズのドリッピング暴動。

@elizabeth_munh

1865年、イングランド北部ヨークシャーの大都市リーズの治安判事チョーサーに仕えていた女料理人、エリザ・スタッフォードは、料理の副産物として得られるドリッピング0.9キロを地元の洋裁師に売った

使用人がこうした役得にありつく事は当時珍しくなく、たとえば執事なんかはワインをがめてたりする

@elizabeth_munh

ところがチョーサーはこれを見てカンカンになった。

「泥棒メイドめ! 訴えてやる!」

こうしてスタッフォードは起訴される事になった。彼女からしたら理不尽極まりない。

「職務上の謂わば副産物です! 皆やってる事ですよ!」

「黙れ! 小さなことでも何度もやれば多額の損失だ!」

@elizabeth_munh

黙認されてる慣習とは言え、大真面目に盗難で訴えられたら確かにそれはそうなので、スタッフォードは有罪となり、禁錮一ヶ月となった。

このニュースはリーズじゅうに広まり、主に貧困な階層の人達を激怒させた。

「ドリッピングひとつで労働者を刑務所にぶち込むとは、なんてケチ臭い野郎だ!」

@elizabeth_munh

街中にチョーサーを侮辱する文言が書かれ、すれ違う人達から彼は侮辱を受けた。ドリッピング! ドリッピング! と彼はからかわれたり、囃される。

「何でこんな事に! 私が何をした!」

リーズは貧富の差が激しい街で、富める者が貧しい者にお目溢しをするのは暗黙の了解。彼はそれをしなかった。

@elizabeth_munh

ドリッピングの代償は高くついた。チョーサーの家の壁にも落書きがされ、外出してもしなくてもドリッピング野郎と大声の合唱に彼は追われる。今や彼は街一番の嫌われ者だった。

そしてスタッフォードが釈放される日、15000の群衆が午前9時から刑務所の前で待機する。

@elizabeth_munh

しかしスタッフォードは午前7時に釈放されており、リーズを後に彼女の故郷に向かっている最中だった。

肩透かしを食らった群衆は振り上げた拳のおろしどころに困る。

「ドリッピング野郎の家に行くぞ!」

ヒロインを迎えて大騒ぎする予定だった群衆は別の方向にシフトした。

@elizabeth_munh

チョーサーの家の周りは既に700人ほどの群衆に囲まれて雪玉をひたすら投げられていた。そこに本体が合流すると、もうタダでは済まない。投石が始まる。家の中でチョーサーはガタガタ震えた。

「殺される! ドリッピングのせいで殺される!」

流石に看過できないと警官隊が駆けつける。

@elizabeth_munh

「お前らもあのドリッピング野郎の味方か!」

完全に暴徒と化した群衆は警察にも投石を始め、衝突した。

「抑えられません! 軍隊の投入を!」

リーズ市長は最早警察ではどうにもならないと、近くに駐屯していた第8騎兵隊に救援を要請し、何とか暴動は収まった。死者1人、負傷者多数の大騒動だった

@elizabeth_munh

暴動が終わると、群衆は自分達のやっていた事があまりにアホらしい事に気づき、この事を忘れたがった。渦中のチョーサーも2度とドリッピングに関して口にしたいとは思わなかった。暴動の参加者で逮捕されたのは1人で、僅か一週間で釈放される。

法は法として、民衆には独自のバランス感覚がある。

@elizabeth_munh

それが蔑ろにされたと感じた時、民衆による私的制裁のスイッチが入るし、一度入れば民衆にもそれは止められない。行くところまで行って暴力を振るって発散するまで止まる事はないし、終わった後も懲罰的な事をやれば再度燃え盛る。

法は民衆のバランス感覚の後追いをしているのね。

@elizabeth_munh