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【弁護団声明】東京都に対する住民監査請求結果について

2023年1月4日

一般社団法人Colabo及び同代表理事仁藤夢乃代理人弁護団

第1 はじめに

1. 2023年1月4日、「東京都若年被害女性等支援事業について当該事業の受託者の会計報告に不正があるとして、当該報告について監査を求める住民監査請求監査結果」が東京都から公表されました。

これは、書面上は「法人A」と表記され固有名詞は省略されていますが、Colaboが東京都から受託した若年被害女性等支援事業の会計報告について「不正」があるとして、現在Colaboが名誉毀損に関して訴訟を提起した相手方(ここでは個人をあげつらうのが目的ではないので、以下「監査請求人」とします)が東京都に対して請求していた住民監査請求の結論です。

2. この住民監査請求では監査請求人によって 「違法・不当な公金の支出等があるのではないか」「不当利得金の返還請求及び契約の取消等の然るべき措置を執るべきではないか」と多くの「疑問」が提起され、これに関連して、当該請求の中のみならずネット上でも、Colaboに対して激しい非難攻撃が向けられてきました。

しかし、後にご説明するとおり、そのほとんどは監査委員によって適切に退けられるに至りました。すなわち、本件監査においては、なんら違法行為は確認されず、監査請求人が主張した事実のほとんどは認定されませんでした。

一部について「不当」との指摘がなされましたが、後述する通りこれも、都の明示の指針にColaboが従っていなかったと認定されたわけでもなくより透明性の高い行政に向けた、担当部局に対する改善の指摘というべきものにすぎません。

また、Colaboは、2022年11月29日記者会見の際に公表した 「Colabo及び仁藤夢乃さんに対する誹謗中傷等について」  含め5通の書面を公表し、Colaboに対する誹謗中傷が事実に基づかないデマであるということを説明してきました(Colaboホームページ 掲載)が、監査結果は、これらの書面に記載したColaboのいずれの説明内容とも合致する内容であり、従前のColaboの説明の正しさが監査結果によっても裏付けられたと捉えています。

私たちは、監査請求人の主張の大半を退けた今回の監査結果について、会計書類を確認した上で事実に基づく的確な調査が行われたものと捉えています。 

監査結果は都の正式公表前に監査請求人に送付され、監査請求人がそれを自身のSNSでコメント付きで公開(有料)したことにより、年末年始期間には既に一部には監査結果を見たとする声がSNSに流れました。

しかし、その多くは、監査請求人が主張する事実はほとんど認定されなかったこと、すなわち監査請求人が昨年秋頃以降SNS上で流してきた、「医療費不正」「車両費不正」「報告書の不備」等の数々の誹謗中傷が事実ではないことが監査により確認されたということを無視しているなど、事案への正確な理解を欠いているといわざるを得ません。なかには、監査決定書の中で引用されている監査請求人の主張部分をそのまま監査結果であると誤読し、「監査請求人の主張がそのまま認められた」と思い込んでいるようなものさえも散見されました。

3. 念のため、今回話題となった若年被害女性等支援事業について、あらかじめ経緯をご説明しておきます。

Colaboは従来から自らの事業として、アウトリーチ支援、居場所確保、公的機関や施設との連携などを行ってきました。平成30年以降、国および自治体の事業として「若年被害女性等支援事業」が開始されましたが、これはもともとColaboなど民間団体の活動に着目して政策として取り入れられたという経緯があります。(このため、Colaboが従来から行ってきた事業と若年被害女性等支援事業とは性質的にどうしても重なる部分があることはご承知おきください。)

この若年被害女性等支援事業について、Colaboは都と委託契約を締結し、「都が本来自ら行う事業を、Colaboが都から委託を受け実施する」という形式で行ってきたものです。

4. Colaboとしては一定の基準に基づいて予算を申請し、事業の実施のために予算を超えた支出をした場合でも予算の枠を上限として報告し精算してきました。予算を申請した際の予測と実際の状況とでは必然的に一致しないことから、予算の枠内で実際の支出項目を相互に変更することは、事業の性質上、やむを得ないことと認識して対応しています。

このたびの監査請求にあたって、Colaboは都の福祉保健局および監査事務局による調査に対応し、領収書等についても個別の確認を受け、事実に沿って説明を行ってきました。

このような経緯を経たうえで、今般の監査結果が公表されたものと理解しています。

以下、Colaboとしてこの監査結果について見解を申し上げます。

第2 各論点について

1. ホテルの宿泊費についての不正が否定されたこと(18頁) 

令和3年度にホテルの宿泊費の予算を300万円(1泊1万円として300泊を想定)として、実際にその予算以上の支出となったので300万円の予算を使い切りました(一時保護対象者の宿泊支援数は232泊)。

この点について監査請求人は、「実際の宿泊数は300泊ではなく232泊だったのに、300万円を受け取っている。1泊1万円が上限だから請求できるのは232万円のはずだ。つまり68泊分を不正に過剰請求している」と主張していましたが、このような主張は監査委員によって「請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

実際、1泊1万円というのはあくまで予算作成の際の目安でしかなく、実際に1泊ごとに1万円という上限が決められていたわけではないこと(1泊1万円を超えた場合もある)、保護対象者以外にスタッフが付き添って宿泊する必要もあることから、これは妥当な結論です。

Colaboが、Colabo及び仁藤夢乃さんに対する誹謗中傷等について (Q6) 及び 12/1補足説明 (4項)において説明していた通りの事実を監査委員が認定したということになります。

2. 車両関連費についての不正が否定されたこと(19頁) 

監査請求人は、タイヤ関係などについて不正請求があるとか、賃料月6万円の駐車場を3ヶ月だけ契約する予算を申請したのは選挙運動のためではないか等という主張をしていましたが、このような主張は監査委員によって「請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

なお月6万円の駐車場3ヶ月分については、予算の段階では確かに想定していましたが、結果としては契約・使用には至らず、予算の枠内で車両関連の別な必要経費に支出しています。

もちろん「選挙運動のために公金を使って駐車場を借りた」などというのは、いわれのない誹謗中傷に他なりません。

Colaboが、Colabo及び仁藤夢乃さんに対する誹謗中傷等について (Q5)、12/1補足説明 (6項) 、補足説明2(2項) において説明していた通りの事実を監査委員が認定したということになります。

3. 旅費交通費についての不正が否定されたこと(19頁)

監査請求人はガソリン代が過剰請求になっているという主張をしていましたが、このような主張は実際の領収書等を確認した監査委員によって「試算に基づく請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

4. 通信運搬費についての不正が否定されたこと(20頁)

通信費について、誤記が確認されたのみで不正は認められませんでした。

5. 会議費についての不正が否定されたこと(20頁)

監査請求人は、予算として請求して使用した会議費が活動報告書の当該項目よりも多額になっていることから、不正請求だと主張していましたが、このような主張は実際の領収書等を確認した監査委員によって「請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

6. 各種保険についての不正が否定されたこと(20頁)

監査請求人は、予算として請求して使用した法定福利費(各種保険)が活動報告書の当該項目よりも多額になっていることから、不正請求だと主張していましたが、このような主張は実際の領収書等を確認した監査委員によって「過大申告とする請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

7. 医療費についての不正が否定されたこと(20頁)

監査請求人は、Colaboの活動報告書で医療費について医療機関から支援を受けた実績について記載していることを理由に、「支援を受けている医療費について、東京都にも請求しているのは不正請求だ」と主張していました。

しかし、前者と後者とはあくまで別のものであり、監査請求人のこのような主張は監査委員によって「本件帳簿記録を調査したところ、本件活動報告書で支援があったとする医療費とは別の実際の医療受診費用等を経費に計上していることが確認できるため、医療費が不正に請求されたものであるとする請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

Colaboが、Colabo及び仁藤夢乃さんに対する誹謗中傷等について (Q4)において説明していた通りの事実を監査委員が認定したということになります。

8. 実施状況報告書についての不正が否定されたこと(21頁)

監査請求人は、都に提出する実施状況報告書と活動報告書の各種の数値に差異があることから、実施状況報告書が不正だという主張をしていました。

しかしこのような主張は監査委員によって「法人Aの自主事業も含む本件活動報告書と本件委託に係る都に提出した実施状況報告書との差異を述べるにとどまり、本件実施状況報告書に不正があることの合理的な疎明はなされておらず、請求人の主張は妥当でない」として退けられました。

Colaboが、Colabo及び仁藤夢乃さんに対する誹謗中傷等について (Q13、14、16)において説明していた通りの事実を監査委員が認定したということになります。

9. 「不当」とされた事項について(22頁) 

監査請求は「違法または不当」な公金の支出等を対象とするものですが、監査委員は、一定の事項について、以下のとおり「違法」ではなく「不当」と判断しました。

人件費・法定福利費(税理士および社会保険労務士の経費)、領収書の取扱、事業実績額の記載、履行確認について不適切性が指摘され、また、給食費・宿泊支援費について一部、妥当性に疑義が指摘されました。また事業全般についての改善についての勧告も行われています。

Colaboとして不正な経費の利用を行ってきたとは考えておりませんが、いずれにしてもこれらの指摘事項の具体的な詳細について今後確認したうえで、東京都に対しては、Colaboとしてこれまで行ってきた取扱のあり方について必要な説明を行い、そのうえで見直しや改善が必要ということであれば指導に従い、適切に対処していきます。

なお、領収書の記載が抽象的であることについては、監査委員も「本事業の特性上やむを得ない事由があることは理解できる」としています。すなわち、虐待やDVから逃げてきた若年女性を保護するという本事業の特性上、その女性やスタッフの居場所の特定につながり得る情報は記載できず、このことは一般的な必要性として監査委員も認めたということです。

公金の使途の透明性の確保と、本事業の特性に基づく一定の情報の秘匿の必要性のバランスをどのようにして適切に図るべきかは、以前から本事業遂行上の本質的かつ困難な課題であり続けています。

Colaboが関わる若年女性は様々な困難を抱え、暴力的な加害者からの信じがたいほど執拗な追跡から逃げていることもあるので、Colaboはこのバランスにおいてはより慎重寄りに対応してきており、女性やスタッフの安全確保のために領収書の記載は必要最低限とすることが多くあります。このことが、監査委員によって「証ひょう書類としての性質上、領収書として認められるか否か疑義が生じるような領収書が含められていることは不適切である」と指摘されたと理解しています。

Colaboとしても、もちろん、公金の使途の透明性の確保の重要性は理解しておりますので、今後このようなことについてどのようにバランスをとるべきかは都の担当部局と緊密に協議し、指導に従ってまいります。

一方、監査において「委託事業の経費として計上するにあたり妥当性が疑われる」とされた、「一回当たりの支出が比較的高額なレストランでの食事代やホテルの宿泊代」「宿泊支援費について都外遠隔地での宿泊代が計上されている」という指摘がありましたが、これらの費用が本事業目的以外への流用などではなく、あくまでも本事業遂行のために行われたものであるということについて、以下で補足してご説明致します。これは、監査に協力する過程で、担当部署に対して説明したことでもあります。

まず、「一回当たりの支出が比較的高額なレストランでの食事代」は、2万円以上のレストランの領収証のことを指すと思われます。高額にみえるかもしれませんが、これは大人数での食事代(ひとりあたり1750円~3400円程度で令和3年度の1年間で5回程度)でした。

また、一人当たりの食費がそれ以上になることが3回程度ありましたが、Colaboの支援対象の女性のお祝い事をするためでした。支援事業において女性との面談等において飲食店を使う際にはファミリーレストラン等の単価の低いレストランばかりですが、この時はお祝い事のため、比較的高額となったにすぎません。たまに行うお祝い事の値段としては特段問題になるほどの金額ではないと思料しておりますし、Colaboに関わる女性たちの多くは生育環境に複雑な問題を抱えており、誕生日や進学、就職などを祝われるという経験がこれまでなかった若年女性もいます。そのようなことも踏まえると、時に、親しい人とお祝いの気持を分かち合う食事の席を経験する機会をもうけることも、重要な若年女性支援事業の一環であるとColaboは考えています。

これについて、例えば「誕生日祝」などと書き、その情報が情報公開請求等何らかの機会に外部に知られることとなると、その日付の誕生日の女性を追跡している加害者に、Colaboが支援していることを気づかせる端緒になる危険性があり得ます。そのくらい神経をとがらせなくてはならないほどの事情を抱えた女性達とColaboは関わっているということをご理解頂ければ幸いです。

次に「都外遠隔地の宿泊代」についてですが、これは、都外遠隔地の女性からの相談に対応するため、そこに出向いてその女性を自宅外に宿泊させる支援が必要と判断したためのものです。宿泊支援を行っている間に、状況の聞き取りや今後の生活、支援について検討を行いました。

若年女性支援事業では、例えば都内でアウトリーチ等で出会った女性が後に都外で暮らすようになったような事例で、その後も関係性(支援)が続き、地方に出向いて相談や宿泊支援を行うこともあります。このような事例では都の委託事業の経費から支出することは差し支えないとColaboとしては判断しました。詳細な経緯を報告していれば、都の委託事業の経費として特段不当性はないと監査委員もご判断になった可能性はあると思料しています。

今後都からどの程度の報告をすべきかの指針等示されれば、受託者としては今後担当部署と協議の上、改善方法を検討する所存です。

そもそも、以上に述べたように、虐待やDV等困難な事情を抱える若年被害女性の支援は、事業の性質としては、本来であれば福祉行政が直接責任をもって行うべき性質のものであると考えています。それを民間事業者に委託することには、民間事業者ならではの利点もあるとも考えていますが、同時に、加害者からの追跡に対峙するようなリスクへの対処も民間事業者の責任となるという側面もあります。Colaboはそのリスクを引き受けてもなお委託業務の意義を理解したため受託者としての業務を行ってきました。しかし、このリスクへの対峙について民間事業者の負担が大きくなりすぎてしまうことでよいのかどうか、本事業を民間事業者に委託する福祉行政のありようが本質的に問われる機会ともなったと捉えています。この観点でも今後都の担当部局と協議の機会をもち、適切な業務遂行をしてまいります。

第3 まとめ

以上のとおり、Colaboに対して行われてきた非難攻撃の大半は監査委員によって事実ではないことが確認され、退けられるに至りました。繰り返しになりますが、私たちは、この結果について、会計書類に基づいた的確な監査であると捉えています。

なお一部、東京都に対して丁寧な説明を改めて行う必要がある事項や、改善が必要となる可能性のある事項もありますが、これらについては真摯に対処し、よりよい事業の遂行を目指していく所存です。

本件の監査において、監査請求人がSNSに流してきた、Colaboに対する多くの誹謗中傷が事実ではないと認定され退けられたことから、Colaboに対する「公金の不正利用」「税金の横領」等のいわれのない誹謗中傷については、今後更に厳正な法的措置で対応する予定であり、これまで証拠の保全に努めてきたこともあわせて申し添えます。

最後になりましたが、このように困難な状況の中でColaboを支援してくださる皆様には、改めて厚く御礼申し上げます。

以上