まず、徹底的な聞き役に回ることが初期には大切です。それは、簡単なようで、実際はとても難しいのです。本人の絶望感がひしひしと伝わってきて聞いている側が不安になり、自殺を思いとどまらせるような何か一言を言ってあげたいという気持ちが強まってくるのが普通です。
しかし、そんな時でも、相手の言葉やその言葉の背景にある感情を一生懸命に理解するように努めてください。そうすることによって、何とか助けになりたいという気持ちが自然に相手に伝わっていくようになります。
徹底的に傾聴するといっても、ただ聞いているのではなく、時々、「それは本当に大変でしたね」、「とても辛い思いをしているんですね」などと本人の気持ちに共感していることを伝えるのがよいのです。
もしも本人が自殺を考えていると疑われたら、はっきりと言葉に出して質問してみて下さい。真剣で誠実な態度で質問するならば、自殺について質問することが、自殺の引き金になることはありません。
絶望感に圧倒されている人は、相手が自分のことをどう思っているかという点にひどく敏感になっています。ほんのわずかな言動も過敏に受け取って、口を閉ざしてしまいます。
したがって、一生懸命に耳を傾けながら、誠実な態度をとり続けることが重要です。
誰にでも悲しかったり、傷ついたり、絶望的になったりすることがあります。あなたも自分を、その立場において見ることによって、相手がどのような気持ちでいるのか理解するように努めてください。
自分の気持ちをありのまま話すというのは必ずしもやさしいことではありませんが、不自然なほどに明るく振舞おうとしたり、おざなりな励ましをしてはなりません。
むしろ、「話を聞いていると、なんだか私まで悲しくなる」など、あなたが本人の気持ちに共感していることを伝えて下さい。あなたがどのように感じているのか話すことで、本人の話を真剣に聞いていることが伝わります。
黙りこんでしまう場合には、何とか励まそうとか、何とか助言を与えようという気持ちがひときを強くなってきます。
しかし、一緒にその沈黙の時間を過ごすのがよい方法なのです。沈黙に耐えられずに、すぐに何かを話し始めてしまいがちですが、本人が自分の気持ちを話すようになるまでじっくりと待つことも大切なのです。
「自殺について話すと危険だ。かえって自殺の可能性を高めてしまう。」、「寝ている子を起こすことにならないか」などと心配する人がいます。
しかし、それは、聞かされてる側の不安な気持ちを表しているに過ぎません。訴える人とそれに耳を傾ける人との間に信頼関係があれば、自殺について話すことは危険ではありません。
むしろ、自分の感情を言葉にして明らかにすることによって、その人の混乱した状態から少しでも脱することが可能になり、その人の苦悩を周囲の人に気付いてもらうきっかけになります。
自殺の危険の高い人は、自殺を考えていることを「誰にも言わないでほしい」「秘密にしておいてほしい」としばしば頼み込んできます。
もう、自殺しか問題解決する手段はない、誰からの助けもあてにしないという絶望的な気持ちになっていることを十分に理解しなければなりません。こころの問題を抱えているなどということを会社に知られたならば記録に残されるかもしれない。皆の噂になるかもしれない、それが解雇の理由になるかもしれない、などと心配しているかもしれません。
あるいは、精神科医を受診したら、精神的な異常を明らかにされてしまうのではないかと心配しているかもしれません。
しかし、自殺を予防する最も重要な原則は必ず専門的な治療を求めるように働きかけることです。もしも、自殺をほのめかした人が専門的な治療を受けるのをためらったとしても、決してそのままにしておいてはなりません。追いつめられた感情を理解しながらも、救いの手を差し伸べることが必要なのです。自殺を予防できるかどうかは早い時期に適切な助けを求められるかどうかにかかっています。
そして、緊急な事態であると判断したら、ただちに緊急治療を受けるための行動を起こすことが必要です。