一般に国の豊かさは人口で割ったひとり当たりGDPを見るが、この指標を使う場合、物価変動や為替レート変動の影響を除去するため購買力平価換算するのが一般的となっている。この購買力平価換算ひとり当たりGDPで見た場合、日本の順位は大きく下がる。先進7か国の中で最下位であるだけではなく、2009年には台湾、2018年には韓国に抜かされ、2021年時点で世界33位となっている。
さて、購買力平価換算ひとり当たりGDPが低いのが事実だとして、問題はこれが何を意味するのかということだ。単に日本が貧しくなったと考えることもできるが、その解釈には注意が必要となる。最大の理由は日本は著しい少子高齢化が進んでおり、人口構成に大きな偏りがあることだ。いくら元気な高齢者が多いとはいえ、そのほとんどは年金暮らしの無業者やパートタイマーであり、人口構成のうち高齢者の割合が増えるにしたがってひとり当たりGDPは下がらざるを得ない。「『生産性』をめぐる5つの神話(後編) 神話3:日本の経済規模の低迷は生産性のせい」にて書かれているように、人口オーナスを考慮すると必ずしも日本の経済成長率は低いわけではないという議論がある。
ここからわかるのは、TFP成長率が先進国並みだから問題ない、のではなく昔から日本の労働生産性は低く、本来その差を縮めキャッチアップしなければならない状況であったのも関わらず、バブル崩壊後以降、成長率が鈍化し他の先進国並みの成長しかできなくなっていることが問題なのだと考えられる。脱成長どころではない。
まず、よく言われるのがサービス業の労働生産性が低い、すなわち過剰サービスである可能性だ。しかしサービス業とひとことに言っても様々な業種がある。床屋の賃金の議論に見られるようにサービス業の賃金はその国での平均的な生産性に大きく影響される。日本の過剰サービスが問題というより、日本の平均的な生産性が低いが故にサービス業にお金が行かず労働生産性が低く出てしまっている可能性がある。例えば、不動産業の生産性が伸びなかったとしても、土地価格がバブルの状態になっていないだけかもしれない。その場合、原因は別にあると考えるべきだろう。また、サービス業の生産性は計測自体が難しく、単なる測定の問題である可能性も否定できない。
他国の労働者の増加が高賃金職種(管理職、専門職、技術職)で進む中で、日本だけは中・低賃金職種に吸収されていることがわかる。すなわち、他国では人材の高度化が進む中、日本ではそのような変化が起こらなかったようだ。どこまで妥当な推計なのか不明なところはあるが、日本では人材投資が極めて少ないという指摘も多い。
今回調べた限り、高度な人材の育成(IT分野がより望ましい)と女性の社会進出の促進、この2点が日本の労働生産性を伸ばすためには重要であろうというのが個人的な結論なのだがどうだろうか。これに関しては、確信があるわけではないので、エビデンスがあるのであれば様々な見解を知りたいところだ。