10数年前、ある与党の大物政治家には秘書をやっている息子がいて、この息子の横暴ぶりは有名だった。私はこの政治家と親しくなった後、彼に「なんで息子さんを止めないんですか?先生の評判も落としていますよ」と言ったことがあった。するとこんな答えが返ってきた。
「言われなくてもわかっている。でも、わしは若いときは子育ては選挙区に残っている妻に任せきりで、ほとんど息子の顔もみることもしなかった。だから、いまさら世の父親のように厳しいことは言えないんだ。妻も息子の味方だしな。これはわしにはどうにもならない」
私はその後、海外に赴任していろんな国の要人を取材するようになったが、権力者が子どもを甘やかす同様の事例は世界中で目にした。多忙や離婚などいろんな事情で子育てに十分に関与できなかった親は罪滅ぼしをしたいという思いから、息子や娘に過剰に甘くなる。親が高官や企業経営者の場合、その弊害は特に大きくなる。その結果、国や会社を傾けることになった例は少なくない。
国会議員や企業経営者にはほとんど休みもなく、子育てとの両立は極めて難しかった。日本では今でもあまり状況は変わっていないのかも知れない。そういう構造問題が変わらなければ、子どもを過度に甘やかして人様に迷惑をかける事例は減らない。そんなことを親しかった政治家の苦しげな横顔を思い出しながら、考えた。
いや、公私は区別しろで済む話なのでは。