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『射精責任』訳者あとがき by 村井理子

そんな、一見とてもファッショナブルで穏やかな雰囲気を湛えたブレアが本書に記したのは、中絶を根本から問い直す28 の提言だ。2022年6 月、女性の中絶の権利を憲法で保障したロー対ウェイド判決が最高裁に よって覆されたことにより、50年間にわたりアメリカ国内で認められていた中絶の権利が保障されなくなった。今現在も、中絶をめぐる議論が賛成派であるプロチョイス派と反対派であるプロライフ派のあいだで激しく交わされている。アメリカ人女性の権利と健康に大きな危機が訪れた今、ブレアは、中絶賛成、あるいは反対という立場を双方が一旦手放し、対話を別の方向へと導くことを提案している。中絶を減らすことを目指すのなら、それを禁止するのではなく、望まない妊娠を減らすことに注力すべき、と説いたのだ。

中絶の99%は望まない妊娠が原因であり、その望まない妊娠のすべての原因が男性にあるとするブレアは、女性を中絶の議論の中心に置くことは間違っていると断言する。そして、セックスをするから望まない妊娠をするのではなく、望まない妊娠は、男性が無責任な射精をしたときのみ起きる、と主張する。女性にのみ避妊の負担を強いるのではなく、男性側がイニシアチブを取る、徹底した避妊を提案している。

本書はアメリカ国内で大きな議論を巻き起こし、ブレアがブックツアーに向かう全米各所においても、活発な意見交換がなされている。ブレアは妊娠・出産にまつわる幻想に対しても「妊娠・出産は、まさに命がけの行いであり、お遊びではない」と釘を刺す。子育ての負担は甚大で、簡単に産めと言うのは無責任だと断罪する。

近年、日本国内でも、女性の健康と権利をめぐる議論は活発になってきている。時代は進んだとはいえ、少子化、出産、子育てにまつわる議論の中心に置かれるのは、今でも、私たち女性だ。私たちはその議論の中心に、男性にも参加してほしいと願っている。

「妊娠させるならちゃんと育てろ」みたいな道徳論を掲げたところであまり意味は無さそう。

あるいは男と寝る時はちゃんとピルを飲む・飲ませるのが文明人のマナーみたいになるのだろうか?