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訳あって廃ビルの地下に一ヶ月住んでたことがある

2階や3階は別の人が住んでた

ダンボールかき集めて半額の弁当で飢えをしのいでいた

先住の人にいろんな話を聞いたり、焚き火を囲んでワンカップを飲みながら昔話をしたり

「お前はまだ20代なんだからこんな生活に慣れちゃあかん。早めに出て行けよな。」と事あるごとに言われてた。

決心がついて出ていくとき、仲の良かったじいさんが腕時計をくれた

親父の形見で、最後の最後までこれだけは質入れもできんかった

(大したカネにもならんしな、と笑いながら)

本当は子供に託したかったが、嫁も子供もどこにいるかもわからん

だから預かってくれと。

何のことはない、シチズンの普通の腕時計だった

あれからもう20年以上経つ

とっくにビルは無くなっているし、自分は家庭は持っていない弱者男性に変わりはないが

それでも毎日それなりの人生を歩んでいる

玄関にじいさんのシチズンを飾っている

電池切れか故障かわからないが、もう止まってしまっている

それでも、時計を見ると色んな人生の話を思い出す

ああはなりたくない。そういう思いではなく、みんな何かを抱えて生きているんだ

だから出会った人が不快だったり腹が立つ人であっても、一度受け入れて話を聞こうという信念が

自分の軸になっている

増田文学だ