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逮捕報道で「数十年住んだ家まで失った」 デジタル時代に深刻化するメディア被害、それでも「実名...

亡くなった高齢の親を暴行した疑いで、同居するきょうだいが逮捕されたというAさんは「テレビ局のカメラが自宅を撮影し、なんの意味があるのかわかりませんが、ドアの鍵穴までアップで映した映像を流されました」と話す。

Aさんのきょうだいは不起訴になったが、センセーショナルな実名報道を原因として、家族は数十年住み続けた実家を手放すことになったという。

マスコミが記事を取り下げたところで、ネットに広がった名前を消すことは容易ではない。実名報道による「被害」をどのように考えるべきか。(ニュース編集部・塚田賢慎)

不起訴が決まると、一部のメディアは自社サイトの記事や動画を削除した。ただ、世に出た情報は、そのまま5ちゃんねるや、まとめサイトに転載され、親ときょうだいの実名は残り続けている。

「メディアが知る権利に応えるため実名報道の立場を取るなら、何かあれば記事を引き下げればそれで問題ないとは思わないでほしい。まとめサイトなどが作成されていることは自分たちの責任ではないと考えているのであれば、それは間違いです」

Aさんは実名報道には反対の立場だ。事件の被疑者や被害者の自宅まで映す必要については「ケースバイケース」だとする。

鹿児島大学でメディア論を教えていた記者の宮下正昭さんは実名報道に賛成の立場だ。

(1)実名報道への考え

捜査権力のチェックのため、メディアは実名報道に覚悟をもって臨んでほしいです。それが結果として「知る権利」に応えることになります。

ただ、実名報道が社会的制裁にならないよう、最大限の努力をして、その実名には「〇〇容疑者」ではなく、「逮捕されたのは会社員の〇〇さん」など「さん」付けにすべきです。

一度目の報道で名前を出したら、その後は「容疑の会社員」「男性」などと匿名で報じたほうがよいと思います。

こうした報道が定着すれば、「容疑者」も、自分と同じ市井の人だという認識が広がり、インターネットやSNSにも影響を与えていくのではないでしょうか。

また、実名で報じた以上、メディアは不起訴とした検察官には裁判で罪を問うことを断念した理由を迫り、本人(あるいは弁護士)にも取材し、考えを聞いて、不起訴を報じる際に実名か匿名がよいか尋ねるべきです。

(2)現場の外観を報じるべきか

事件現場の映像は基本的に報道する意味はあると思いますが、公的な場所ではない場合には一定の配慮は必要でしょうし、家の映像をニュースの枠の大半、長々と使うのは視聴者に変な印象付けをしてしまいそうで、配慮が必要だと思います。

⚫︎実名報道に反対「デジタル社会ではプライバシー侵害の弊害は深刻に」

名誉毀損や実名報道にくわしい佃克彦弁護士はメディアの報道姿勢に慎重さをもとめる。

(1)実名報道への考え

Aさんのケースは、まさに実名報道の弊害が発生している事例だと思います。情報の蓄積と検索が容易になったデジタル社会において、犯罪報道によるプライバシー侵害の弊害は、より一層深刻になっています。容疑者や被害者が市井の人の場合、その実名を報じることに社会的な意義があるとは思えません。市井の人の犯罪報道は匿名でおこなうべきだと私は思います。

(2)現場の外観を報じるべきか

その現場が、誰かの自宅であって、それを報じることによって、そこに住んでいる人の生活の平穏が害されるおそれがある場合、メディアは、その現場外観を報じる必要があるのかどうかを、立ち止まって検討する必要があるでしょう。

MEMO: