安楽死の反対意見として良く用いられるのが「すべり坂」論です。これは「死が間近」「耐え難い苦痛」などの要件が徐々に緩和されていき、気がついたら安楽死の対象が広がってしまうことを危惧するものですが、本書によるとこの危惧にはリアリティがあるといいます。
まずは安楽死が「緩和ケア」の一環のように扱われているケースです。
先述のカナダ以外でも、緩和ケアの研修を十分に受けていないと、身体的・精神的な苦痛がケアで取り除けないと判断すると、安楽死を唯一の解決策と考えてしまう医師も多いそうです。
また、安楽死が「死ぬ権利」として定義されると、「なぜそれを認めないのか?」という動きが起こってきます。
アメリカのオレゴン州では当初、医師自殺幇助の対象を州民に限っていましたが、となりのワシントン州の州境近くの医師が、わずかな距離で認められないとは権利の侵害であるとの訴訟を起こし、結果として州民の要件は撤廃されることになりました。
オーストラリアの安楽死合法化の運動でも、「スイスにいけばできるのに」ということが論拠として使われたそうです。